ショートショート1471~14802021.11.08 04:371471.夏にだけ存在する少女の話をしよう。電車は補完された物語の外側を通り過ぎ、帰り道私達は星だけを数えて帰る。永遠、の長さを知る人よ。挟んだ栞から漏れ出すのは何色でしょうか。骨の白さを知る人よ。誰かが隠した夏の下には向日葵だけが咲かなくて、業と、誰も彼女の顔を知る人はいないの...
ショートショート1461~14702021.11.01 04:331461.シーラカンスの群れは一匹死ぬと何処からともなく現れた若いシーラカンスによりその穴が埋められ群れを維持していく。デボン期から続くそれは沈黙と永劫を静かに紡ぎ、隕石により地球が破壊し時間も消えた頃、何処からか現れた若いシーラカンスによって埋まった群れは音もなく、銀河の中を泳...
ショートショート1451~14602021.10.18 04:281451.「神様に内定決まったよ」明日からと夜の喫茶店にて、珍しく約束を取り付けた君が言った。最初は小さな奇跡の提供かららしくクローバーや虹、綺麗な貝殻などの二人で見た思い出を話しているとポーンと時計が零時を打って、夜風越し君のいた席には真新しい御神籤が置かれ中には待人来ると書か...
ショートショート 1441~14502021.10.11 04:241441.薄紫色の夜、私は夜行列車に乗っていた。外には砂漠が広がり、廊下に並んだ部屋を覗くと中は深海になっていた。隣の部屋には蝶達が、隣の隣には金の月がお姫様の様に浮かび、「私達は同じ物語に出る途中です」と言うのでまた会える様な小さな物語である事を祈りながら私は静かに月光の熱を覚...
ショートショート1431~14402021.10.04 04:211431.陽に洗われた青い本達の海を一番清らかな螺鈿色の星になって漂う。未明、底、影の先。神を忘れた街の隅には紙吹雪が降り積り、毛刈りされた夢羊は声も上げず森の奥で儀式の為に殺されるからその瞳にあった物語は跡形も無いよ。今夜、世界は美しいから月明かりに溺死した蝶は夢だった事にして...
ショートショート 1421~14302021.09.27 04:161421.月明かり色の夜、紅茶に金平糖を入れると自分も落ちてしまった。カップの中は思ったよりも深かったらしく見渡すと魚の骨に似た星図達がそこらを泳ぎまわり先に落ちてゆく金平糖は遠く光となって、目を覚ますと私は同じ夜の中、いつの間にか空になったカップの底には「see you」と綴ら...
ショートショート1411~14202021.09.20 04:111411.コートから星が転げ出た。去年の流星群で入ったらしいが、どうしたものかと調べると警察サイトのその他拾得物の欄に「星」とあったのでクリックするとチャイムが鳴り、そこには少年が立っていた。「確かに」と星を受け取った彼は微笑み、翌日ニュースでは季節外れの流星が二つ観測されたと報...
ショートショート1401~14102021.09.13 04:081401.宇宙の果てにて君の宇宙服を発見した。旧式ビーコンは弱々しく、近寄りヘルメットを覗いてみると君は居らず、代わりに一輪の百合が花開く所で、『人が生まれ変わるのは凡そ百年』と遠い昔に誰かが言った。相対性理論越しにもう狂いすぎた私達の百年がやっと巡り会えたのだと、この時初めて気...
ショートショート1391~14002021.09.06 04:021391.死んだら一緒に最果ての海でダンスを踊ろう。もう意味を失った恋を置き去りにして愛だけで存在しようよ私達、祈る君の横顔だけが走馬灯に映ればいいのに、世界が少し邪魔すぎるから報われない。草木も眠る丑三つ時、墜落死した天使は月明かりに溶かされ、眠らない私を置いて羊達はゆらゆらと...
ショートショート 1381~13902021.08.30 03:581381.隕石が降り、目を開けるとパーティーが始まっていた。「もう何百年も前からやっていたんだよ」と古風な紳士が恐竜の足元でグラスを掲げ、絶滅した生物達がのんびりと寝そべっている。燃える街を抜けて海へ行くと水上では誰もが愛の名の下に踊っており、生産性を失った私達を覆う星空はただ美...
ショートショート1371~13802021.08.24 03:571371満ち潮の夜、今世紀最大の満月が地球の海を吸い取った。それでも少し水面が下がる程で天変地異にならなかったが、夜になると月明かりに乗って水面の揺らぎが降り注ぎ、コンクリートを未明の海底に沈める様になった。寝静まる街にて、噂では目覚めない寂しがり達は皆、夢から月へと泳いでいった...
ショートショート 1361~13702021.02.01 03:301361.誰もいない午前の空、地上の月の顔をしたガスタンクの上で二人の子供が紙吹雪を散らしていた。「魔法をかけているんです」と自由そうに梯子から足を伸ばした子が言う。ちらちらと舞うそれは赤と白の紙切れで、顔を上げると子供達はもう何処にも居らず、そこには白い三日月が浮かんでいるだけ...