ショートショート1411~1420

1411.コートから星が転げ出た。去年の流星群で入ったらしいが、どうしたものかと調べると警察サイトのその他拾得物の欄に「星」とあったのでクリックするとチャイムが鳴り、そこには少年が立っていた。「確かに」と星を受け取った彼は微笑み、翌日ニュースでは季節外れの流星が二つ観測されたと報じていた。

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1412.本を開くと中からぱらぱらと色鮮やかな花達が溢れ出て、見ると書かれていた「花」と言う言葉だけが抜けて空白になっていた。驚いていると「春とは手品が好きなものだから」と君が笑うのでもう季節は春になるのだと気が付き、陽射しの中、花まみれの私達はゆっくりと少しだけ未来の計画を立てている。

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1413.兎ばかりの月面に、銀のケトルがよく似合う

星の泡立つ海面に、青い手紙がよく似合う

不眠症者の月光に、羊のダンスがよく似合う

煉瓦通りの曇天に、檸檬の光がよく似合う

秘密主義の鉄塔に、夜明けの熱がよく似合う

神を忘れた街角に、紙吹雪だけがよく似合う

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1414.分厚い壜を舐める様に鉄塔が夜に溶ける輪郭を愛しても私達は誰かの一瞬で、月の可視光線は保存液に似て36℃の熱だけが隙間を埋める。絡み合う髪の数だけ同じ夜明けを見ようよ、瞳に映る私が君の瞬きで殺されていく夜は神様、私達の爪は去年より痩せていくから永遠についての証明は困難だと知っている。

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1415.青い夜、扉を開けると旅に出ていた君が立っていた。渡されたのは小さな瓶で、「バターだよ」と上着を脱ぎながら言うので私はクラッカーとワインを用意し小さなお祝いをしたのだがチカチカと銀色に瞬くバターは金平糖のように甘く、どこで作られたのか聞くと「あそこ」といつもより黄色い月を指差した。

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1416.刎ねられた青い鶏の首から星達が流れ出した。「宇宙が一つ死ぬ度にこうしてまた生み出されるんだ」と星生みが持つ青色に濡れた斧を眺めて君は呟き、瓶に詰められた旧宇宙はアラザンの様に清らかで、「次に行こうか」奇跡の前借りで運命からはみ出した私達は迷子の様にゆっくりと、世界の外で旅をする。

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1417.青い夜の中、住宅街を歩いているとそこら中に檸檬が散らばっていた。仄かに光るそれは誰かの夢のようで、「私達は月明かりの破片です。博愛主義者の厭世家、不眠症者の夢十夜…」と知ったように意味のない事を呟きながら鳴り響きだし、ふと腕時計を見るとそこには随分昔に失くした月がはまっていた。

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1418.一体誰が送ったのだろう。君から届いた封筒の日付は半年前で、中には結晶の生えた手紙が入っていた。長い間月明かりを受けていたらしく結晶の触れても失われない冷たさは終わらない夜の様で、もう灯らないあの部屋にあったのだろう。君の遺書は恋文にも似て、私の涙は結晶を溶かす事すら出来ずにいる。

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1419.ある言葉が世界から消えてしまった。元々あった箇所は空欄に変わり発言も出来ず、「人を見限ったのでは」「私達が見失った」「使い果たした」と論ずる中「そもそも最初から無かったのでは」とSNSで見かけてから私は迷子を自覚した子供の様にたった二言だった感情をあやす様に、君の名前を唱えている。

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1420.明るさに目を覚ますと窓から大きな瞳が覗いていた。見ると月明かり色の髪をした巨大な少女が音もなく歩いていたので(きっと月の子だ)と思いついて行くと街外れの海に辿り着き、そこにあるパラボラアンテナを不思議そうに摘む彼女が走馬灯に出ればいいなと思いながら私は一人この夜に名前を付ける。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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