1431.陽に洗われた青い本達の海を一番清らかな螺鈿色の星になって漂う。未明、底、影の先。神を忘れた街の隅には紙吹雪が降り積り、毛刈りされた夢羊は声も上げず森の奥で儀式の為に殺されるからその瞳にあった物語は跡形も無いよ。今夜、世界は美しいから月明かりに溺死した蝶は夢だった事にしておやすみ。
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1432.昼下りの柔い水面を漕いで海に残された廃ホテルへ行きます。最上階には『★』と印された部屋があり、中ではマフラーに彗星のバッジをした紳士が寝ているので「こんばんは、今日ですよ」と起こすのが星祭の恒例行事です。帰りに振り返って下さい、窓から彗星が夜に向かって飛んでいくのが見えますから。
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1433.弾ける音に目を覚ますと世界は泡だらけになっていた。虹色の膜達は静かにコンクリートや街灯を溶かして夜を侵略し、その奥の海では月明かり色をした巨大少女が一人シャボン玉を吹いていたので漂白される私達はいつか彼女の事を化物として聖書に綴るだろうかと最期に眺めながら、私は魂色に消えていく。
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1434.私達が原始だった頃、時間という最大の宗教が産まれていない頃、きっとその時呟いた言葉は色も重さも音もないまま今も側を駆け抜けている。残響、飽和、時間に溶かされ意味だけが残ったそれは標本みたいに辞書に縫い付けられてさ、だから私達は無音でいつまでも叫び続けているんだ。産まれたての様に。
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1435.青い夜の中散歩していると広場に本棚達が広がっていた。どうも古本市らしく陽に焼かれ青くなった本ばかりが月明かりの様に並んでおり、店主らしい人影が海藻のように佇む中一冊の本を取るとそれはもう失くなってしまったどこかの国の文字らしく、音の無い海底にてここは本の幽霊達なのだと気が付いた。
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1436.発見された遺跡を上空撮影するとそれは巨大なQRコードだった。スマホで読み込むもギガ数は許容を超えており、専門家曰く「地球の歴史よりも遥かに膨大」らしく何台ものスーパーコンピュータでやっと読み込んだそれは「真理」と名の文章だったのだが読むのに数億年かかる為未だ作者不明とされている。
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1437.眼鏡は顔の一部ではありません
ペンギンは北極にいません
林檎に毒はありません
半月は蛸貝ではありません
命は短くありません
薄荷飴は満月ではありません
ミシンと蝙蝠傘は出会いません
檸檬は爆弾ではありません
曇空は詩の余白ではありません
無花果は永遠ではありません
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1438.友人から封筒が届いたので開けると波と蝉の鳴き声が聞こえ、中には海が広がっていた。どうも夏を詰めた手紙らしく、「良い夏を」と友人の書いた手紙が浮いていたので私は友人宛の封筒を作り、手紙と共に去年買った青いビー玉を入れると中から星が飛び出して、中では流星群がコーヒーの様に回っていた。
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1439.無声音で綴られた詩は誰にも読まれる事なく小さな水晶になりました。それを見つけた少女は曇り空に翳して中に書かれた言葉を読もうとしましたが、何しろ少女の名前も無声音なので言葉は音にならず、代わりに雨を降らせました。雨は音もなく降り続きます。この世にある言葉よりも多くの詩を呟きながら。
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1440.世の中を二つに分けたら何になる?
生きているものと死んだもの
死んだものを二つに分けたら何になる?
残ったものと忘れられたもの
忘れられたものを二つに分けたら何になる?
空白と余白
余白を二つに分けたら何になる?
月明かりと海
海を二つに分けたら何になる?
微睡みと、途切れた永遠
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