ショートショート 751~7602019.11.25 02:53751.窓の外、近くから秋祭のお囃子の音が聞こえる。音は小さく、見渡していると一つ蝉の抜け殻を見つけた。耳を傾けるとお囃子はその割れ目から聞こえていた。仄かに光り、ぱちぱちと提灯が揺れる様だ。「この蝉は、秋を楽しみにしていたのだな」夕風吹くベランダにて、抜け殻と共に陽を見送る。・...
ショートショート 741~7502019.11.18 02:46741.薄荷水の瓶が、窓際の、青白くなったテーブルに置かれていた。『誰かが置いたのかしらん』見渡しても私一人きりで、側にある薄檸檬色の手紙を見ると「寂しく思ったのです。お一つ共に」と書かれていた。窓の外には手紙によく似た色の穴が浮いている。薄荷水は程よく体に溶け、丁度夜に似ていた...
ショートショート 731~7402019.11.18 02:37731.冬の朝早くに散歩に出る。『このまま暗に溶けてしまえ!』、自殺にも似たこの気持ちはやたらと清々しく、胸膨らむものがある。だが段々と世界が薄らみ、青銀、金、そして極彩色と変わるうちに、私は個なのかと再度認識するのだ。夜は塗り潰し、朝は全てを解き明かす。それは水を抜かれた海に似...
ショートショート 721~7302019.11.11 02:28721.ある科学者が夢を映像化させる機械を発明した。試験者を数人寝かせ、遂に夢の映像がモニターに…その途端彼は怯え絶叫し、機械を破壊してしまった。「夢は一人の同一人物だ!私達は夢を見ているのでは無く、夢に見られている!」以来彼は眠る事を極端に恐れ、病院のベッドの隅で震えている。・...
ショートショート 711~7202019.11.04 04:59711.それは救えぬ程愚かで浅ましいので殴って頭陀袋にいれ鍵をかけ、二度と思い出さぬ様埋める為、深い穴を掘った。恨み込め掘り進め、気付くと私も出られぬ程深くなり「これは無意識下の心中だった」と知った。頭陀袋に問う。「君はそんなに尊いのかい?答えてくれよ、恋心」表面の私が遠くで笑っ...