721.ある科学者が夢を映像化させる機械を発明した。試験者を数人寝かせ、遂に夢の映像がモニターに…
その途端彼は怯え絶叫し、機械を破壊してしまった。
「夢は一人の同一人物だ!私達は夢を見ているのでは無く、夢に見られている!」
以来彼は眠る事を極端に恐れ、病院のベッドの隅で震えている。
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722.通り魔から逃げているうちに影がいない事に気が付いた。急いで戻るとそこには、包丁の突き刺さった私の影が地面に映っていた。
『通り魔事件がありました。影が刺され、器物破損で捜査を…持ち主を探していますが、恐らく非常に探し辛いと…』
影の無くなった私は、自動ドアにも気付かれない。
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723.チョコレイトの包みを破くと、中から土星が出てきた。チョコレイトの香りと混ざり、仄かに蒸した木の匂いがする。
さては工場に迷い込んだか、僕は夕の空にそれを放り投げると、それは空高く赤い点となった。
「だからあの赤い星は本当は土星なのだ」
これは土星と地上の僕だけの、内緒の実話です。
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724.私は落ち、自分の柔らかな香りの中、死を待ち寝ていたところを拾われた。その人は私を自宅へ連れて行き、水入りの瓶に立たせ微笑んだ。
私はじっと顔を見たのだが、やがて首の重さに耐えられず、恋を覚えた私はぽとりと暗転した。
そこで目が覚めた。
ふと横を見ると昨日拾った牡丹の花が落ちていた。
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725.濡れるアスファルトに、灰色の輝きを集めた何かがあった。
平たく幾何学に節折れたそれは、何処かの傘の鍵であった。
私は赤い傘の下、手当たり次第に刺してみた。コンビニ、図書館、科学館、路地裏の壁…
遂にがしゃんと音がして、その途端、頬を拭うように日差しがさした。
これは空の鍵だったのだ。
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726.古書堂にて買った本の中に、物語に出てくる植物の押し花が挟まれていた。桜に始まり菫にスズラン、理想にそった紅椿…
そうして最終章
悪く、そして誘惑的な予感はしていたが──やはり。
最後を捲ると、未開封の古い遺書が挟まれていた。
ただ思惑と違うのは、私の名前が書かれていた事だ。
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727.「おや、この空の色を知っているぞ」
ふいと見た空に覚えがあり、引き出しを漁ってみると、青と紫の間に碧色を遊ばせたひし形の、特別なフローライトを探し出した。
「これだ、そっくりだ!」
私は空に翳すと、カチリと音がし、そのまま溶けるように石は消えて、いつからかあった黒い星が消えていた。
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728.『ニュースです。十月三八日の彗星は一人の幽霊を攫って行きました。警察は紛失物として捜査しています。或る人形が母を探しています。どの星かご存知でしたらご一報を。以前脱走しました譁�ュ怜喧は漂白剤で消されたそうです。
ニュースです。この放送はいつ終わるのでしょうか。続きまして…』
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729.早朝の道の上、何かの種を拾ったので植木鉢に植えて見ると、その夜外から栓を開けたラムネの様な音がして、花火の様な、涼しげな黄色をした光の線が空へと飛んで行った。
翌朝植木鉢を見てみると、そこには掘り出した様な、また飛び出した様な穴があり、種は無かった。
あれは箒星だったのだ。
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730.紙飛行機が空を切った。
すとんと夜空が落っこちて、地面では網をもった漁師たちがこぞって星を拾い集めている。空はと言えば、やれやれと言いたげに緩やかな渦巻きを描き、星々を生み出している。
「ほうら」おじさんが僕に赤い星を渡した。それは少し熱く、冷えると共に透き通った金平糖になった。
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