ころんだ達磨さんと2019.01.11 14:19戸を開けるとそこは、一面の達磨畑だった。事の発端、というものなのかはわからないが、その夢の前日に見た夢で僕は山で小川を眺めており、そこへ突然上流から一つの真っ赤な達磨が流れてきたのだ。大物だ!と意気込んだ訳ではないがとにかく助けねばと思い、掬い上げたのだ。そして今日の夢。達磨畑。...
首の風船2018.12.18 13:36首だけで空を飛ぶ夢を見た。人気のない道を超低空で飛び、たまに会う人は面白いぐらいに私に驚くのだ。首だけの身体はとても軽く、くるりと振り返ると私の長い髪の毛が、まるで長いスカートを翻したように、首の下できゅっと絞られ、また解放される。それがとても楽しかったのを覚えている。すうと空へ...
ある自殺者の動向と身体から溢れ出した魂の膨張2018.12.16 02:40満月の夜でした。夏の始まりのある夜、自転車を漕いでいると海沿いの道にでました。大海原の上にはトポンと、太陽の熱を包んだような大きい満月があり、海にはそれから色を垂らしたような、まるで月へと続いているかのような、美しい月の橋が出来ておりました。ザブン引き寄せられるように、気が付くと...
鉄槌2018.12.16 02:39火葬後、トレーを引き出すと叔父の頭に般若のお面が付けられていた。親族はもちろんスタッフもそんなことをするはずがなく、また燃やされまさに今出されたばかりの為そんな事誰にもできるはずが無い。その場にいた全員がざわめき、悲鳴をあげる者までいたのだが、誰一人として消えた瞬間を見ていないと...
廃神社で待つ者2018.12.16 02:38小学五年生の八月始めの事だった。祖父の家に遊びに行って、僕は虫を探しに山に登った。日は高く、木漏れ日が地面を覆う。その様子がなんとも飽きなく続くので、ずっと僕は下を向いて歩いていたんだ。いつからだろうか。舗装された道ではなく、けもの道を歩き出したのは。唐突に木漏れ日が消え、光が地...
「魔術書を解読しました」2018.12.16 02:36「真実を述べます旦那様、その代わりペンと紙を頂けませんか?」望み通りのものを渡すと男は話し出した。私はね、魔術書の解読に成功したのです。しかし紐解いていくとそれはどうも、奇想な数学化学なようで。例えばその魔術を唱えたり書いたりしてその物に己が出来る事を気付かせるんです。燃やす呪文...
月の王の望月2018.12.16 02:35今は亡き月の王が望んだ願いは、この退廃し、白と黒とが支配する美しく寂しい星を、誰かが愛してくれることだった。僕が自意識を持った時にはすでに人はおらず、無駄に発達した調理ロボットが僕の命を繋ぎとめた。何処を歩いても辺りは寂れ、塵となった鉄屑の砂漠となっている。一度小さな鉄を拾って遊...
蓮華の柩2018.12.16 02:33「私の亡骸を、蓮華の上に乗せてくださいな」私の10年来の友人が亡くなった。彼は小さな小鳥であった。夢で彼の言った通り、私は彼に別れを告げるため、夏の朝、彼を蓮畑へ連れて行った。そっと蓮華の上に乗せると蓮の花びらが動きだし、スルリと彼を花びらで包んで、そして水の中へ潜っていった。2...
忘れる喫茶店2018.12.16 02:31カランコロン「おや、いらっしゃい。ご愁傷様」そこは朝靄のように白い靄のかかった河原の傍にある、古い喫茶店だった。カウンター席に座って辺りを見渡す。コツ、コツ、と心地よく時間を刻む振り子時計に、見たことの無いが何故か知ったような植物が飾ってある。マスターの後ろ、カウンターの壁には色...
分離する君2018.12.16 02:30満月の夜は、君の分離する姿がよく見える。一人窓辺に佇み銀色に光る君は、揺れ滲み、散々に形を変えて、この夜闇に溶け込まんとしている。その姿はまるで、満ちた波に輝く月明かりの様だった。「こんばんは」そう声を掛けると分離した彼女全員が此方を向き、なんてことない顔をしてまるで広がった扇が...
記憶の砂漠2018.12.16 02:29夢を見た。そこは夜の砂漠だった。真っ黒な夜空にベツレヘムの星のようなぎらんと光る大きな星が一つあり、砂たちを光らせている。そこで僕は探し物をしていた。うんと遠い、昔の記憶の破片を探していた。砂の中から出てきたのは古いレコードだった。いつの間にか置いてあった蓄音機にセットし取っ手を...
命日の箱庭にて2018.12.16 02:28自分の命日に閉じ込められた。雨上がりの輝きもそのままに、セミも時を止めている。区切られたのは僕の生活空間であるこの街周辺だ。こんなに明るいのに僕は影を落とさない。この角を曲がると、走る子供が宙に浮いている姿があって、ここにはあくびをする猫で、あそこには林檎を落とす女の人、ブランコ...