首の風船

首だけで空を飛ぶ夢を見た。

人気のない道を超低空で飛び、たまに会う人は面白いぐらいに私に驚くのだ。

首だけの身体はとても軽く、くるりと振り返ると私の長い髪の毛が、まるで長いスカートを翻したように、首の下できゅっと絞られ、また解放される。それがとても楽しかったのを覚えている。

すうと空へ上がってみると渋滞の赤い列や洒落たイルミネーション、蛇によく似た電車の行進、溢した牛乳のようにぐんぐんと流れていく人は、なんとも自分とは無関係な動きのような気がして面白かった。

次第に耳が痛くなり息が白くなってきた。

遂に雲の上を抜けたのだ。

そこは先ほどの生命的な動きは無く、ただ壮大に流れる永遠の雲の海と、それを照らす今まで見たことの無いほどに大きい月だった。


そんな夢を見てからというもの、首から下が不要に思えて仕方がない。

ふいと首を浮かせるように伸ばしてみても、首と身体、身体と地面しっかりとくっ付いてしまって浮かせられないのだ。丁度持ち手の紐をどこかに括られ、自由を失った風船のようだ。

この紐を、断ち切ってしまえれば、私はあの夢の様にもう一度、自由に浮かび上がることができる気がする。


それは髪型を変えるような、そんな誘惑だった。

鏡を見て、理想の生活へ、



一体の奇妙な遺体が発見された。

洗面台にて包丁で首を切っての自殺のようだった。

しかし奇妙なのは、その遺体の首が無くなっていることだ。

警察は部屋は密室だったと言っているが「そこから人が入れるはずがない」と、唯一開いていた天井の小窓の捜査をしていない。



WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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