ショートショート 1162~1170

1161.午後二時過ぎの緩やかな崩壊により、人畜無害なおばけ達は昼の半月に成仏し、薄荷色の影を空に消した。目に見えなかった脅威達が巨大ウーパールーパーとし姿を現した今では逆らう者は誰もいない。静は動を溺れさせ増殖していく。いち早く脅威側へついた私達はアイスを食べながら、夏の予定を組んでいる。

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1162.侵略してきた宇宙人達が君にそっくりで、そこで君が宇宙人だという事が判明した。突然のアイデンティティの崩壊に落ち込む間もなく石を投げられ恐ろしい程の非難を浴びた君は首に赤い跡を付け眠っており、月並みだが、成る程こういう時の言葉かと思いながら一人違う顔の私は光線銃を握り、先陣を切った。

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1163.解体新書に眠る平行は密封された様に永遠で、昼の海底に映る水影に似ていた。カンブリア紀の昼下がりを夢見たプール後の心地よいカルキの匂いが充満した四時間目は何処迄も透明で一つの回帰場所となっており、二度と手に入らない所にある。昼の半月に溶けた幽霊はきっと、第三宇宙で上手くやってるさ。

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1164.眠れない夜、月明かりの平面さを確かめる様に部屋を歩き回っていると、古い電話機の側に「CALL ME」と知らない番号が書かれたメモを見つけた。ダイヤルを回すと3コールの後、プラネタリウムの案内音声が始まった。星座の説明と『月をご覧下さい…』月光が陰り、外を見るとクジラが月を食べる所だった。

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1165.迷い込んだその海は底から茎が伸びており、水面には温かな日差しを浴びて蓮の花が揺らいでいた。遠くから、気泡も上げずクジラが通り過ぎ、他にも金魚や海月、絶滅した古代魚達が泳いでいく。下へ潜ると冷える様な月が現れ、暗い海底に広がった魚達の骨の右目からは、あの蓮の茎が伸びていた。

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1166.銀の砂漠に浮かぶはの所々青く錆びた月で、そこは永遠の最果てだった。月の下に誰かがいる。此方に気付くとそっと人差し指を口に当て「静かに、君が起きてしまう」と目を細めた。話によると此処は夢の最深部で、私は今、瓦礫の下で昏睡しているらしい。君は誰?と尋ねると、君の死神さ、と笑った。

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1167.君が夏に溶けだした。先ずは言葉で、喋る事も出来なくなった君に私は昔作った単語帳を渡した。 その次は記憶で、次第に虚になる君はそれでも私を見ると笑って見せたが、その頃には体は透け、体温は無くなっていた。そして8月31日、君から届いた手紙には単語帳の最後に書いた私の名前が一枚入っていた。

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1167.銀河の果てへ飛ぶシャトルの揺れは鈍行に似て、少しだけ地球を思ったりなどをした。使えなくなった携帯には以外と音楽が入っていて、さっき出会ったばかりの親友と片耳ずつ聞いている。星まみれの窓、地球時間はもう午前4時で、繋いだ手が5本指である私のアブダクションは、緩やかに遂行されている。

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1168.白いテーブルに並べられた銀色のカトラリー。白い皿に乗せ運ばれて来たのは四角いお餅であった。「お味は如何でしょう」燕尾服を来た兎男が問うので美味しいと言えば、満足そうに鼻を動かした。白光る荒野にて、一体これは何個目のお餅だったか。目の前に浮かぶ丸い地球は、成る程確かに青かった。

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1169.深夜、チャイムに扉を開けるとペンギンがいた。不眠症にて重くなった私の夜から零れ落ちたらしい。かつて三日月だった右目は閉じたまま、紺色は流動している。持っていた赤い本を開いて語られる、知らない物語達は耳心地が良くて、「これは君の見られなかった夢だよ」窓の外には月明かりが満ちている。

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1170.石鹸のように、君に撫でられ擦り減って、泡のように消えられたのなら、この人生も愛せるのかもしれない。半分にしたパピコの行き先へ、テーブルに並べられた君の提案を皿ごと食べ尽くしていく昼下がり。海に、山に、博物館。月の裏側を夢を見ては念写を試みる君が、今日も幸せでありますように。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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