ショートショート 1131~1140

1131.友人が点Pを捕まえた。どこかの教科書から逃げたらしい。保護法を調べると警察ではなく市役所に届けねばならない様だ。日曜日、私達はバスに乗り市役所に行き、あっけなく点Pは職員に預けられた。その日私達は何となく遠回りをして帰ったのだが、期末テストになると私達は少しだけその事を思い出す。

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1132.月が変化した。以前の白色などではなく、鏡の様な球体になっていた。前からだと皆は言うが、夜の度に拡大鏡の様に月に映った自分と、自分の虚像越しにあの月と目が合っている様でどうも不気味だ。「月は白かった」とメモをしようと手帳を開くと、月についての出鱈目なメモが幾つも綴られていた。

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1133.腰に爆弾を抱えていた部長がついに爆破した。その爆破は半径10m程のクレーターを作り、我らがブラック会社を潰したのだ。「いい人だったよ」部長のお陰で引き抜き転職が出来た私達はたまに集まり、部長を惜しんでいる。この後ある組織により部長はサイボーグとして復活するのだが、それはまた別の話。

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1134.旧校舎の科学室は私達の秘密基地だった。君が出鱈目に開けたプラネタリウムに光を灯し、安いコーヒーを飲む放課後はそれ以外全てが余分で、神様すら要らない程だ。だがそんな時期も過ぎ、私は一人科学室に立つ。震える携帯を見ると君からで、一つ変わったのは未だ私を先生と呼ぶ友人が出来た事だ。

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1135.突然世界中に三面体が現れた。頂点には月が浮かぶのだが見る人によって違う様で友人は林檎だと言っていた。どうも頂点に見る人の美のイデアを具現化させ、誘き寄せて食べているらしい。最近の行方不明の真相が判っただけで私達は抵抗出来ず、侵食により随分と人の減った地球にて、未だに月は美しい。

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1136.人間関係というものは二次元的で、運命という言葉は言わばショートカットキーであり、折紙の角と角を合わすような、交差線のようなものだ。だから、意味もなく気が合う私達の運命が、ただ折紙好きの神様が必要としただけの運命で、どこかの折鶴の頭上で座りながら傍観する為だけのものかもしれないね。

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1137.蔵で見つけたそのラジオからは曲が流れていた。ずっと昔に忘れてしまった様な、教会で聴いた賛美歌に呑気にもクラブジャズを混ぜた様な、不思議なものだった。アンテナも何もなく、後ろを開けてみると其処には月がいた。廻るそれに手を伸ばすも届かず、ふと外を見ると月光が曲に合わせ揺れ動いていた。

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1138.「偽物は本物をよく知る上で偽物となり、稀にそれは本物より本物となる」という言葉を基に私達は入れ替わる。私を真似る君を見て、私はより本物になる為それを真似る。逆も然りだ。確立した個を得る為に私達は魂を混ぜ合わせる。それは大きな一つの矛盾で、一週間後、私は嫌いな紅茶を好きになる。

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1139.プラネタリウムへ行った。一面に広がる偽物の夜空は遠い神話を思い出させる様で、君の吸い込まれる程に大きな瞳が星々を捉えていた。私達は空を飛ぶ。星図の骨組みを潜り、銀河を手で掬う。ふと部屋が灯る。鑑賞時間が終わったらしい。隣を見ると君は居らず、君をあの世界に取り残した事に気が付いた。

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1140.草生い茂る裏の池に月が落ちていた。ぽっかりと丸いそれは幻の様で、粉砂糖色に輝いている。月は何を食べるのだろう、とりあえずカルシウムをと父の仕事で有り余る螺鈿の粉を撒くと少し寄ってきた。それからも月は空に帰る様子無く池にいる。仄かに螺鈿色になったそれは、なにかとても眠そうだった。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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