1081.雪に線を引き、やっとガソリンスタンドに辿り着いた。満タンにして白い息を吐く。ガソリンが切れる前に一番いい場所が見つかるだろうか。海の見えれ所がいい。毎年花が咲く所がいい。ラジオではAIが人類は滅亡したと放送し、防腐処理だけが残る世界で、隣の君はあの日と変わらぬ姿で沈黙している。
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1082.夢を見た。狭いそこは青い光と梯子以外何もなく、上ると下に町が広がっていた。私が這い出たのは煙突らしく煙が溢れ、満月を撫でている。
遠くに友人を見つけた。「おーい」と呼ぶと友人は驚き、その隙に追っていた怪物に食べられてしまった。
翌日、悪戯そうに肩を小突く友人に、私は小さく謝った。
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1083.猫についてのレポート
・額の面積を測ろうとした者が必ず額に迷い込む為、測定不能。
・空から降ってくるのはファフロツキーズによるのか液体だからなのかは不明。
・夏は蝉の抜け殻に入り込む事が多い。
・最近の集会はリモートが主流。
・抱き上げた際の最長は3m。梯子が3mだったから。
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1084.友人はよく行方不明になる。そういう体質らしい。そして見当違いな国から手紙や電報が届く。私達はとびきり仲がいい訳ではないが、何故かそういう関係が学生時代から続いているのだ。
「蜈�ー暦シ」そんな友人から遂に読めない言葉で手紙が届いた。今は何処にいるのだろうか。年末には戻るだろうか。
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1085.フィルムケースの中で冬眠する少女は粉砂糖によく似ていた。少年が開けていく。一つ、二つ、幾万と規則正しく並ぶケース。星座の骨格標本、けむり、梯子、ブリキの喇叭、満月、蛍石、詩集。
少年は少女と必ず出会う。それが一分後か百年後かはわからない。少女は夢を見る。少年が解放されるその日を。
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1086.私が死んでしまった。布団に横たわる私はあの死者特有の物質さを持っていた。それ以来世界は眠ってしまった。今や私は自分の体も思い出せず、ただ慰める様に自分の亡骸を眺めている。ここは地獄なのだろうか。命日という棺桶にて風は凪ぎ、星は瞬く。海は泡沫を生み、私だけ今日も死んでいる。
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1087.友人が溶けてしまった。
「角砂糖、ナツメグ、ジャズの切り抜き、詩集、珊瑚、真鍮の螺子巻き、蝶の標本」それらを友人入りの瓶に放り込んで混ぜていく。
『助かったよ』お礼を言う友人は変わりない様で安心した。だが、ほんの出来心で混ぜた私の赤い糸が今後どう作用するのか、少し胸が苦しくある。
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1088.私が夏祭りで迷子になった時、見つけてくれたのは君だった。行方不明になった時も、飛行機が墜落した時も、透明になった時も、遺伝子操作で怪物になった時も。
だから電子となり確率の雲へ紛れ込んでしまった私を見つけてくれるのも君なのだと知っている。でも君は文系だから、気長に待つ事にしよう。
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1089.心中という洒落たエスケープをかました我々は無邪気にも海へ遊びにきた。
「死ぬ時は一緒だと決めていたんだ」水上にて魚を見ながら君が知らない顔で笑うから、やけに照れてしまう。独占欲が強いのはきっと僕の方だった。「とりあえず南極にでも行こうか」僕達は歩く。握った手を離さないまま。
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1090.鯨が月を飲み込んだ。
夜は寂しいと言ったから。
鯨が海を飲み込んだ。
月が恋しいと泣いたから。
鯨が地球を飲み込んだ。
海が居ないと憂うから。
鯨が惑星を飲み込んだ。
地球を返せと怒るから。
鯨が宇宙を飲み込んだ。
きっと宇宙も寂しがり。
鯨は独りで泳いでる。
独りで誰かを待っている。
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