1051.銀を瞬かせながら現れたのは、白いクジラの姿をした美しい死神だった。
「こんなに暗い、この世の隅にも来るんだね」『私は貴方が何処へいても必ず迎えに来ますよ』「寂しかった」『もう大丈夫、私が来ました…』
宇宙の端にて独り浮かぶ宇宙飛行士から、機械音はもう聴こえない。
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1052.彼女の髪には銀色に輝く一粒の大きな星が隠れている。それは王冠であり、彼女が神様だという証拠だった。「それは昔の事」タピオカを飲み彼女は言った。「今は誰かが私の代わりにこの夢を見ている」蘇を食べる。「私はマトリョーシカの輪切りを知っているだけよ」御馳走、彼女は人混みに紛れていった。
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1053.不眠症の少女は気付けば月に居た。其処らに散らばるのは孔雀の羽に銀の宮殿、終わらない砂時計、金魚鉢の鰐、いつかの夢で見た者達ばかりだった。「大変、ここは夢の舞台裏」鰐を抱えて歩き回ると、お姫様の様なベッドを見つけた。少女は鰐と潜り込み、目を瞑る。寝てしまおう。私が私の夢を見るまで。
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1054.海で女性と出会った。私達は近所の喫茶店や一人で行けなかったお店、秘密の散歩道を歩いた。(金木犀が似合う人だ)海へ戻ると彼女は手を握り「」と言って、私は目を覚ました。彼女へ渡そうと金木犀を手に海へ行くと、棺が打ち上げられており、中には蛋白石が一つ眠っていた。金木犀の似合う石だった。
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1055.壊れてしまった天秤を、星座を紡いで直します
「林檎と罪の秤は踊り、計れないまま百年経った」
割れてしまった分度器を、海を継いで直します
「月の屈折は記した途端、真珠へ姿を変えていく」
折れてしまった物差しを、蕾を貼って直します
「赤い糸の先は終ぞ見えず、私は途方に暮れている」
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1056.月の荒野を歩く。「迷子にならない為には何を見つければいいのだろう」何か無いかと体を弄ると、胸ポケットに楽譜の切り抜きがある事に気が付いた。ショパンだ。小さなワルツを歌いながら歩いていると前方に、「MAP」と書かれた白紙が落ちていた。其処に「私」とだけ書き込み私は、少し長く眠りに就いた。
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1057.少年が薄荷水で作ったシャボンを膨らましながら歌っていた。「上手く上がれば星になり、綺麗に飛べば風になる」『落ちてしまったら?』と思わず聞くと「愛しく落ちれば石になる。役に立たない物は、愛する他ないからね」と言って一つ蛍石を寄越した。ちっぽけで頼りなく、暖かく、優しいそれは、零れた涙と同じ温度だった。
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1058.「本日の波予報は東西南北どこをとっても穏やかですが、◯◯県◯◯市の◯◯さんのお家の金魚鉢にてあと一分後、大波注意です」
『私のことだ』
日曜日の昼下がり、ラジオからそんな言葉が聞こえた途端、ざぶんと音を立てて金魚鉢から真っ赤な金魚が飛び上がった。
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1059.扉を開けていくと正解であろう扉を見つけた。開くと三日月が見える。だが外に出ようと手を伸ばすも何かに当たり出られない。振り返ると先程通った三つ並ぶ扉にも左右の扉にも同じ月が映っており、これは鏡なのだと気付いた。その途端壁は崩れ、誰もいない荒野の中、一人分増えた夜があるだけだった。
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1060.地図が手書きの頃、真似されぬ様に偽の地名を書く事があった。印刷が発達しそれも風化した頃、捜索依頼が出た。が、すぐに取り消された。
彼のいう友人の住所があの偽の地名だったからだ。「これが毎日届くんだ」と見せた封筒にはあの地名の番地と、中にはあの地名が載る古い地図が入っていた。
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