1031.「幸福は美しくなければいけないよ。だって君にあげるのだもの。君に似合う薄荷色だといいな、残り香の様に上品で、光に当たれば三千世界の虹を見せ、影に置けば神様のみる夢を投影する。きっと君が死んだ時には冥界の道標となるだろう。そんな幸福を見つけてみせるから、其れ迄一緒にいてくれないか」
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1032.月の大きな冬の夜、電波塔の上に恋人達がいた。「どうしたんですか?」思わず問うと、「心中をする場所を探しているんです」と手を振り答えた。折角ならば一番素敵な所がいい、それで二人旅をしているらしい。遠くでチカリと火が燃えた。明るくなる空の下、いつの間にか二人は何処かに消えていた。
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1033.「夢で友人が出来たんだ」顔がどうも有耶無耶だが夢で会えばすぐわかる。珍しい赤毛でね、そんな事を話していた友人が今目の前で倒れている。轢き逃げだった。呆然とする僕の前に突然一人の男が現れ、一つ涙を零すと彼を抱き、霧の中へ消えていった。男の赤毛だけが鮮やかで、友人は未だに行方不明だ。
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1034.無声音で語られた、寂しい寂しい恋語り
海の底で開かれた、楽しい楽しい音楽会
心のうちで呟いた、小さな小さな大演説
詩の中に鳴り響く、大きな大きな狂想曲
山の麓で歌われた、明るい明るい葬送曲
神様がささやいた、くらいくらい日曜日
月の光が語らいだ、とおいとおい子守歌
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1035.遺言に従いその箱を開けると、瑠璃色の光を溢れさせ、浮かび出たのは淡黄色の月だった。叔父が捕まえた物だろう。月は何かを探す様に回転し、開けた窓からも逃げ出さない。恐らく持ち主を失った故に、帰る宇宙自体がないからだ。「月を頼む」、叔父が流した涙には、どれ程の我儘と愛があっただろうか。
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1036.遺言に従いその箱を開けると、瑠璃色の光を溢れさせ、浮かび出たのは淡黄色の月だった。叔父が捕まえた物だろう。月は何かを探す様に回転し、開けた窓からも逃げ出さない。恐らく持ち主を失った故に、帰る宇宙自体がないからだ。「月を頼む」、叔父が流した涙には、どれ程の我儘と愛があっただろうか。
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1037.友人に会いたくなったので庭を掘り、中から小さな銀の棺桶を取り出した。開けると中には友人ではなく、大きな蛋白石が入っていた。その温もりは確かに友人で、その石に生まれ変わったのだと分かった。「君は僕の側に居てくれるんだね」月光に反射する緑、黄、青の輝きは確かに彼の羽根と同じ色だった。
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1038.「月を無くした人を知らないかい?」暗い夜、薄荷の香る紳士が問うた。「そんな奴は知らないなあ」僕が言うと寂しそうに有難うと呟いた。不思議な奴だ、月など失くしようもないだろうに。そう思い空を見上げると其処には月どころか星もない事に気が付いた。驚いて振り返ると、そこには誰もいなかった。
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1039.私が見る予定だった夢は、どうも誰かに奪われたらしい。空っぽになった夢の中、そんな犯行声明文とともに私は態とらしく付いている足跡を辿っていった。「待て待て」街角、南極、飛び込み海底、鯨の口に泡粒と出て、空の星…『ニャア』耳元の声に目が覚めた。机には倒されたインクと足跡が踊っていた。
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1040.月の存在証明
1.月は見える場所にある
2.見える場所にあるなら掴む事が出来る
3.しかし月に伸ばした手は空を掴むのみ
4.即ち月とは瞞しである
5.私はコイン程の月でいいのに
6.魔法はいつか次元を変えたと噂がある
7.ならば活字に浮かぶ「月」こそが
8.この世の本当の月やも知れん
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