851.マトリョシカを包む建物を包む大気を包むオゾン層を包む宇宙を包む何かと、神様が信じる思想は似ており、鳥が先か卵が先か問題、ラプラスの悪魔を人間が作った事とその存在に気付いた事とに大差はない。放射する、逆流する。無限に、無限に。流転は膨大な距離を周り、私達はその帰りをずっと待っている
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852.マトリョシカを包む建物を包む大気を包むオゾン層を包む宇宙を包む何かと、神様が信じる思想は似ており、鳥が先か卵が先か問題、ラプラスの悪魔を人間が作った事とその存在に気付いた事とに大差はない。放射する、逆流する。無限に、無限に。流転は膨大な距離を周り、私達はその帰りをずっと待っている
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853.月の鳴る夜、外から鍵盤ハーモニカの音がした。覗くと輪郭の白い子供達がリコーダーやトライアングル、首掛けの木琴を奏でながら出鱈目で、とんと素敵なパレードをしていた。海辺に光る防波堤を一列に通って行く。
幽霊か、誰かの夢かはわからない。だがこの街ではそんな夜になると皆窓辺に集まるのだ
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854.互いが恋人と別れる度「おかえり」と声掛ける私達は未来が確定事項だと知っている。手を繋ぐよりも固く、唾付けよりも意味のあるこれは呪いにもよく似ており、結果主義者の私達はこれに甘んじている。色分けされた糸は褪せず絡まっており、寿命、いつかその時まで、私達は互いに生きろと願うだけだ。
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855.夢のあの子に恋をした
醒めてひいては蜃気楼
最後に残った聴覚ひそかに
私は声だけ覚えてる
あの日見た夢あの夢は
一番最初の失恋です
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856.隠し事をしていました
月はそれが恋だと知っています
隠し事をしていました
夜はそれが無意味だと知っています
隠し事をしていました
海はそれが致命傷だと知っています
隠し事をしていました
冬はそれが優しい事だと知っています
隠し事をしていました
神様はそれが呪いだと知っています
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857.路地裏から薄氷を割る様な音が聞こえた。思えばそれは断末魔やも知れん。
街中の人が囲むそれは青白く光る、粉々になったお月様であった。夜空には黒い穴がぽっかり浮いている。
街の人々はそれを瓶に詰め、家の明かりにした。今尚輝くそれは割れた時の振動か、耳澄ますとあの時の音が遠く響いている。
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858.今一度この世を二次元下に落とそうよ。物理学も遠近法も捏ねて伸ばして、上れる程の角度にある空よ、ならば月にも手が届こう。この世の何処かに月を目指して歩き続けた老人が居るはずだ。或いはそれは自分である。曇り空に詩を書こう、水平線を縫い付けよう。だからいつも絵の中は自由が塗られている。
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859.卓上の卵が、割れては戻りを繰り返している。それは世界のバグか、死にたくなかった卵の虚しい願いの残像か。
「結果までの早送りではないか」
高速の輪廻。この世は一本のシナリオを神様が読み直す度に始まり閉じる物語。そう思い出した私は今何度目の同じ朝を迎えているのかとっくに覚えていない。
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860.一服しようとベランダへ出ると、「火をつけましょうか」と三日月が降りてきた。これはどうも、私は月に煙草の先を差し出した。その途端、シュワ、パチパチ!と弾ける音と薄荷の匂いがしだし、驚いて見ると煙草は青い花火に変わっていた。
わははは、空から笑い声がし、月は疾うに天辺へと逃げていた。
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