841.「世界は回数である」と誰かが言った。
インドの寺院では今何個目かの黄金の円盤を挙げては下げ、終焉への駒を進めている。1844京6744兆737億955万1615回の内の今は何個目でしょう。月までの距離は42回で、宇宙は創造主の指の数とリンクした進数で動き、心臓の動作数と死神の足音はやがて巡り合う。
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842.『君にすてきな夜をやろう』
そう言い彼は白磁の瓶を見せた。僕が不思議がると彼はその瓶の中身を銀の器へ注ぎ出した。『トクトク』、気味良い音と共に現れたのは、ラピスラズリを溶かしたこくりと深い青色と金木犀であった。弾ける様に香りが広がって、それ以来僕の夜空には金木犀の香りが染み込んでいる。
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843.電車から、秋空に泳ぐ鯉のぼりを見た。それは忘れられた約束によく似ており、なんとなしに誰か子供の死を予感した。七つの祝いに叶わなかった守りは、その後どうなるのだろうか。竜になり損ねた鯉は、せめて賽の河原まで、飛んで行くことが出来ただろうか。
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844.僕達は理解というトンネルから水滴同士の様に吸い付き共有した。1+1=1の二乗。及び大きな1。ならこの世のどこかで宇宙の仕組みを理解した人がいるのなら、その人は宇宙に吸収されてもいいのではないだろうか。丁度0=1だと言った数学者の様に。ある日不可思議な一行の式を置いて、とぷんと、飽和する
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845.夏に包装されたそれは、檸檬色に色あせた輪郭になった。
夜に包装されたそれは、月に魂を吸われてしまった。
『誰かここを破ってくれないか知らん』
そこは地図にも時間にも載っておらず、ただ誰かの宇宙にあり、自然宇宙はそれを把握しない。『囚われの』、そこは檻が、はたまた城か、唯の自分か。
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846.私達は常に悪魔の証明に輪郭造られている。「私は人間の可能性が高く、猫ではない。心身恋を通し適切な性別はわからない。犬でもない。私は月に行かない。幽霊では恐らくない。無色ではない。」否定の輪郭は圧縮し私達を際立たせるが、中身は依然靄が際立ち
、恐らく其処には盲点に立つ自分がいる。
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847.陽が夜を差し、緑色に広がる夕暮れはどこか少年的であった。夜側にはアラザンの様に一粒の白光る星が震えている。このまま金木犀を探しに散歩でもしようかしらん。真逆には昼の熱を持った月が輝く。そうだ、川辺の金木犀を探せば天の川が見えるだろう。靴を履いた外遠く、ポラリスが鳴り響いた。
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848.幸福の魔術を行う為に葬儀屋になった私は、泣く乙女に寄添い、言葉巧みに材料となる涙を回収していた。
いずれ千人の涙が集まった。
それは真青な石になり、だが全く効果は感じない。
失敗か、私はそれを千等分し、彼女達に返して行った。全てを終え、ふと手元を見ると小さく美しい宝石が一つ残っていた。
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849.廃神社から夜光貝の首飾りを持ち帰ったかの子はその夜、泣きながら口から大きな真珠玉を何個も吐いた。村長と神主に払われ首飾りは回収されたが、襖の向こう、「今回は出来がいい」と、笑う大人の声が聞こえた。
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850.「彼らを巡り合わせる為です」
私の中学は、新校舎を建てる前にある生徒が一枚を除く学校中の鏡を割る事件があった。
学校には設立時の制服姿の男女が鏡に映る噂がある。少女は佇み、少年は探し回る。彼らは決して一緒に映らない。
だが事件後その噂は無くなり、代わりに古い鏡が一つ残るのみだ。
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