811.代々恋する乙女達に引き継がれているこの古い呪文は、「さようなら」という意味なのですが、それを知る乙女は居らず、ただ純粋一心に唱えます。
これは愚かでしょうか。
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812.「何でもあるは何もないもある訳であり、何も無いは只の入り口であり何も無いがあると気付けば何かがある訳で、僕には何も無く何でもある。
君にも何かあげよう。目に見えぬものなら幾らでも。」
『それなら愛を半分下さい。
それだけで私は満たされる』
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813.宇宙と深海とクリームソーダについての証明
① 冷たい=冷たい=冷たい
② 星=泡沫=気泡
③ 火星=灯台=さくらんぼ
④ 月=水月=アイスクリーム
①②③④により、この3つは大体同じような物であるといえる。
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814.古いまじないをかけてあげる。
地球が真新しかった頃、アダムとイヴが産んだのさ。バベルの塔のその昔、魔法の言葉で紡いだまじない。
みんなが忘れたその言葉。
言葉はみんなを覚えてる。
古いまじないをかけてあげる。
これは誰も知らない言葉からの、愛しい子らへの子守唄。
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815.シーツおばけはね、取るまではいるんだよ。取るから居なくなるんだ。
『ほらね』
私の手から滑り落ちたシーツの下から、ぽつりと聞こえてそれっきり。
それ以来息子は行方が分からない。
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816.銀河の果ての果実、少女が当てもなく浮遊する。夢だろうか、頬を摘む気はない。鈍行に似たリズムに輝く星々、ちらちらと花が浮いている。それは願いを叶え終えた流れ星で、ソーダのような香りがした。そもそも宇宙は炭酸に似ている。きっと私はバニラアイスに向かっている。さくらんぼもあるかしら。
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817.「彼女を埋め車に戻ると彼女の遺体があった。掘り返すと彼女がいた。遺体が増えたんだ。
それから何度も捨てるが必ず返ってくる。今ではほら、彼女の遺体で部屋が一杯…」
そう言う友人は空の部屋で蹲る。
だが彼の言う彼女は健在だ。
不意に戸の開く音がする。「また増えた」友人は先を睨んだ
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818.男が執筆していると次第に内容と現実が重なり、遂には内容が溢れる様にな った。主人公は本人となり、本に思想、構想を侵略されていく。気付けば世界は余白と本が知るものだけになった。
意を決し、「暖炉に本の中の本を入れると、男も燃えだした」と本に綴った彼は、炎の中、本と心中しましたとさ。
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819.その魔女の家には奇妙な置物から鉱石、剥製、標本、押し花からぬいぐるみやアクセサリまで「蒐集物」として置いてある。彼女はこれらを「彼」と呼んでいた。
「彼は私を好んだ罪として二度と人へは生まれ変わらなくなったのよ」
だけど私にはわかるの。
そう言って魔女は新たに彼を一つ増やした。
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820.金に縁取られた雲が流れる。深い紫は大いなる母の撫でる様で、それは寒色のアンモライトによく似ており、世界の厚さは生命の憂いだと知る。紺碧に覆われよ。夜の女王が語る御伽噺は夢に訪れ、全ては彼女の膝下に。蝋燭の炎は太陽に帰る。それは幾何学な流出と創造の間に位置し、死の神は個を忘れない。
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