801.宇宙の絵を描くと何やら渦巻く音と共に星が回り出した。どうもこれは絵ではなく宇宙だと認識されたらしい。先程までの絵の具の香りは消え、澄んだ炭酸に似た匂いがする。
額に飾ったそれは窓になった。私は一体どこの宇宙を切り取ったのだろう。通り過ぎる宇宙人に手を振りながら、隣の宇宙を考えた。
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802.『湖が神様に欲しいと願ったから』
そんな小さな神話を携え、その湖には一つの遊園地が沈んでいる。いつの時代からか不明だが千五百年前の王もこの神話を眺めたという。
その湖は星光を集め、夜は白銀の炭酸水の様に輝く。またそんな夜には首長竜に始まりクジラや一角獣の目撃談が優しく噂されるのだ
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803.「後ろから好奇心のような物で一撃」「好奇心を飲ませた」「研いだ好奇心で刺した」「好奇心を首に巻きつけ締めた」「深い好奇心に沈めた」「家に好奇心を点けた」「毒好奇心を忍び込ませた」「ブレーキかと思ったら好奇心だった」
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804.「君が僕の妄想だと仮定する。すると君の全世界というものが僕の頭の中に収まっているので、僕は凡そ君の神であり、ならば常に祝福を与えよう。
僕が君の妄想だと仮定する。すると同じ様に僕は君の中に収まっているんだ。少しだけ僕を贔屓して、幸せを祈ってほしいな。
そうして二人、生きていこう」
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805.『こっちにおいで』
声がした。近付くと小さなバケツに収まった青い月が此方を見た。「見た」そう思った途端ばしゃんと水飛沫が上がった。
以来僕の夜空にはよく喋る青い月が昇る。『可愛いね』『小さいね』月は僕を見下ろし笑い、僕はバケツに遠く映る黄色く無口な月を眺め、途方にくれている。
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806.世界で一番みじかいお伽話は、いつも私達のそばにあります。
英語でも日本語でもおんなじ文字数で、出会いと別れを意味します。
それは一種の呪文であり、きっと何かを願うお伽話でもあるでしょう。次の物語を作るのはいつも君達主人公だ。大丈夫、君達なら出来るさ。
それではみなさん、さようなら。
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807.月の光には無音の騒音があり、ただ果てなくギラリともジャランとも言えぬ第三の音として降り注ぐ。だから私の話し相手は月だけだ。私は月を見ているが、月は全てを見ているので決して目が合うことがない。月は全てに話かけ、私は月光に耳をすます。このひんやりとした博愛にこそ、私の求める孤独がある
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807.少女を標本にする方法
琥珀に埋める
紀元前の箱庭で飼う
そっくりな人形に少女の名をつける
夏の夜に閉じ込める
小指の赤い糸で縫い付ける
四月の空に浮かべる
海と空の間に留める
果てのある宇宙に漂わせる
花と蛍石を食べさせる
暗いアイスドームに入れる
午前五時の隙間に挟む
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808.『久しぶり』
僕はこの言葉に呪われている。見ず知らずの老若男女問わずに『久しぶり』と言われるのだ。共通点は右目下の泣き黒子で、それと目が合うと『久しぶり』…
ある日鏡を見ると右目下にシミがあった。それは見る見る大きくなり、ツヤリ黒く輝いて、
『これで完成』
僕の口がそう言った。
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809.生が与えられた時間を削るように、覚えた側から忘れるように、本を閉じるように、この世も最初から既に100で0に消えてくれれば、明日とは本当は昨日で、老いは若返りで、極彩色の塗り絵が真白に戻れば、宇宙が再び光に帰せば、この世に本当に終わりがあるのならば、私は安心し未練なく死ねる気がする。
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810.海と空は決して交わる事のない運命共同体です。
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