ショートショート 771~780

771.廃墟にて障子に一刺し覗いてみると、そこには爛漫桜が舞った。

もう一刺し、そこには波風魚が泳いだ。

ぷつり、ぷつり、

最後の一つを覗き込むと、向こうから真白い顔が覗き込んだ。身を引くも束の間、頭を掴まれ、ずるり。

後には何も無かったように、無傷の障子が静かに佇むばかり。

・・・

772.君が死んだら、この世で最も優しい大地を探し、そこに君を寝かせよう。

胸に手を組ませ君の好きな、黄色い名の無い雑草の種を握らせよう。

僕は君が朽ち果てて、花が咲くまで見届ける。そうして僕が歩いたら、黄色の花を其処らに見つけるのだ。

そうして僕はその花に、君の名前を呼ぼうと思う。

・・・

773.君の体には複数の君しかいない

「り き り と ひ ら か き と た れ ま う は と ひ」

血の混じりなぞ繋がりなだけ

愛なぞ心の支えなだけ

思い出なぞ死への土産なだけ

裡に集中し真空を作れ詩人

真を探す旅に出よう

・・・

774.プールの陰に沈み、瞼の裡に点滅する明暗にて生死の地平線を見る

・・・

775.胆礬でできた鳥は、青い影を落としながら少年少女を導きます。

毒虫の問いかけるジャングルに、死の裏を見る雪国や、鯨の骸の砂の街。

涙の行く末乾いた湖、心を無くした少女は高気圧から降りてこない。

毒混じりの幸福は、心に永遠を齎した。それは目を閉じた時にだけ現れる、セピア色のユートピア。

・・・

776.其れ丈、其れ迄、其れっきり

少女は、彼女は、大人のあの子は

羽捨て、地に足、重力結び

二度と、空へは、飛び立たない

・・・

777.春のさいはてには、その年の夢で結んだ詩が響いている。

夏のさいはてには、その年一番に降った流れ星が落ちている。

秋のさいはてには、いつか届く海と空の計算式が一枚貼ってある。

冬のさいはてには、いつか掘り出される事のない優しい水晶が眠っている。

・・・

778.「恋を叶える魔術を教えよう。瓶に朝露を入れて、桃色の花と紅水晶を一緒に入れなさい。

するといずれ溶け合って、小さな真珠となる。それが合図だ」

嬉しそうに去る少女に悪魔が笑う

「つまりそれは、有り得ないって事!」

君が初恋を忘れたら取りに行こう。

それは世にも寂しい、忘れられた恋なのさ

・・・

779.毒林檎が殺された。

手鏡持って殺された。

林檎も梨も、首を振り、遺体を囲み泣いている。

毒林檎は一つ、叶わぬ願いを持っていた。そうして鏡に唇落とし、自分の毒で亡くなった。

願いも動機も何もかも、全ては彼女の毒の中。

・・・

780.暗い水に浮かんでる

小さな象牙の白船は

銀の調べを水に書き

土鈴の歌を唄います

漂う蓮の香り涼しく

船は月へと落ちて行く

とぽんと 音がしたろうか

水月が揺れて それっきり

あとは静けさが語り継ぐ

それから船は冥界の旅に続きます

船に乗っていたのは

いつか死んだ

私です

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

0コメント

  • 1000 / 1000