421.この世は人間と狸と、狸が化けた生き物で成立しています。
猫も鯨もユニコーンも、全て狸の一匹踊りで、動物園など実質タヌキランドなのです。
当然ですが人間にも狸は混ざっており、日本人の大半が狸との話もあります。
また彼ら曰く「狸か聞かれたら答えるよ」との事です
是非聞いてみてください。
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422.蛸は考えた
私はいつから居るだろう。確か海の凍った頃だ。そんな古いと真に自分が蛸だったのか分からん。本当は海月かもしれぬ
悶々と蛸は思考を燃やし、丸い頭が膨らみ浮いた
ここは真に海なのか、真の真は空かもしれぬ
ぷくぷく蛸は気球の如く空を泳ぐ
疑うだけで蛸にとって空海も大差ない事だった
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423.引っ越して、服を捨て断捨離して、ファブリーズを撒き散らし、髪をベリーショートにした。
姿の変わった鏡に問う
「あなたは誰ですか?」
鏡が笑う
「勿論、私はあなたです」
どうしようもない。
嗚呼だから、どれだけ貴方の跡を消しても辛いのか。
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424.君を想ってエンピツを握っていると、それから花が咲き出しました。
ゆっくりと開くそれは、ぽってりとした紅にハイカラな黄色を施した、五枚花弁の椿でした。
深緑のエンピツに生えるそれは、嗚呼確かに君のようだと思ったので、それを君宛の封筒に入れたのです。
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425.冬のイノセントな寒さは幽霊を溶かす
暖かな月光に映し出された自分の影のちっぽけな事に気がつくのだ
「私は何をしたかしら」
自問自答を転がし捏ねていくうちに、やがて全ての蟠りが「まあ良いや」と言わんばかりにとぷとぷと溶けてゆく
そうしてしんと冷えた風が吹いて、其処にはもう、何もない
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426.その義眼は真珠貝で出来ていた。完璧に作られたそれは、目にはめるとぼんやりと青い光を帯びて遠い海の記憶を思い出させる。
夜になるとその光は一層と淡く溢れ出し、目から黒い海へ溶け込もうとぽくぽくと涙の様に、上へ上へと光の泡となって上がって行くのだ。
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427.七不思議を探そうとクラスメイトに聞いたのだが、全員全く違う噂を言ってきた。
先生にも聞いてみると「そうだなあ、クラスメイト全員に七不思議を聞くと、全て違う答えが返ってくるというのがあるなあ」と答えた。
先程まで騒がしかった教室が静まりかえっている。
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428.「ごめん、自分じゃ止められなかった。このお守りをもって寺へ逃げてください。緑が来ます。」
小学生の頃に同じだった旧友から、そんな手紙が遺書として届いた。
そういえば昔その友人と緑色のお化けを見た。
その手紙が届いた頃から、目の端でちらちらと緑色が視界に入る気がする。
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429.私のお月様を質に入れたので、それから私の世界に月はない
「月が綺麗ですねと言って」
君がそう言ったのだが、暫く見ていない月が本当に綺麗だったか思い出せない。そう言うと君は徐に空へ指を突き刺した。ぶすり。そんな音を立てて僕の夜に満月のような穴ができて、その動作が月よりも遥かに美しくて
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430.その白装束はウエディングドレスであった。「いつ買ったのかは知らないけれど遺書と共にクローゼットに入っていたの」と事故死した友人の母は泣いていた
火葬後、トレーを引くとその友人の骨は異様な程完璧に残り、さらにその骨は染め上げた様に真っ黒だった
彼女は一体何と結婚したのだろうか
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