401.清水寺を上がる坂を見上げていると、歌声が聴こえてきた。
人混みの中、いや人混みから体半分程浮いた半透明な女性が、それはもう気持ち良さげに歌っていたのだ。
「いやあ見事。」
僕が手を叩くと、それに気付いた彼女は真っ赤な顔を両手で隠し、ピューンと一直線に空へと飛んで行った。
・・・
402.「パパ!おじいちゃんが地面に入っちゃった!行きなくないって泣いてる!助けないと!」
父が息を引き取った庭の地面を息子が手で掘りながら叫んでいる。
『お星様になったんだよ』
『天国へ行ったんだよ』
そんな言葉は虚しく、
親父は紛れもなく地獄へ落ちたようだ。
・・・
403.「お気付きでしょう、旦那様」
それは私が骨董屋から購入した古い皿だった
「私は狸でございます。その昔色々と諸事情で、長い事この器に化けておりましたら戻れなくなりまして…
それで一つお願いがございます」
「週末は刺身がいいです」
その皿で何か食べるとやたら早く減る事を思い出した
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404.チン、トン
チン、トン
雨の中、間抜けな音を鳴らすのは古いバス停の時刻表だ。
少し経ち到着したのはバスではなく水飛沫を上げない馬車だった。
「乗りますか?乗りませんか?」
その問いに辛うじて首を振ると、やたら高い背を窮屈に曲げた御者が空高くハットを上げ、去って行った。
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405.何億年も解けなかった世界の謎が、少女の一晩の夢で経った100年で綺麗さっぱり解けた。
それは何よりも残酷で極限に宇宙を巻き込み、そして真理の答えであった。
しかしその壮大さか、将又その答えの下らなさ故か、少女は記憶を捨ててしまった。
だから彼女は今日も一日、純粋無垢に息をする。
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406.その廃墟には女の幽霊が出る。
必ず階段に、必ず廊下に、必ず二階に、必ずベランダに。
必ず同じ女が出る。
劈く悲鳴をあげて僕も廃墟から飛び出した。
振り返って屋敷を見上げると、全ての窓から同じ女が右手を窓に這わせ、こちらを見ていた。
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407.朝、玄関に靴が無かった
探すとベランダに揃えられた私の靴が置いてあった
しかしただそれだけであり、いつも通り出勤し仕事をして、食べて寝る生活だ
しかし何か心が虚しく、もしかしたらあの時自殺したのは私のドッペルゲンガーか、私の一部だったのかもしれない
私は今日も生きている
?
・・・
408.それは、月に海がまだあった頃の話。
1匹の生物が高らかに海面から跳ねた時、引力に引かれ地球へ落っこちた。
それ以来その生物は地球の重い重力の中、跳ね上がる。
我々が時折ブリーチングをするのは、月に帰りたいが為。
「これが鯨の昔話さ」
そう言いながら若い鯨は月に向かって塩を噴いた。
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409.「一説によると宇宙は数字でできているらしい」と、僕に算数を教える姉が言った
「二進数なのか十進数なのか、はたまた零進数なのか。きっと宇宙人の指の本数ね。そうやって数字を編んだものが宇宙だそう」
「つまり、これは宇宙に近付く一歩」
その魔法の一言で、その夏僕は算数ドリルに溶け込んだ
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410.「この大学の子が髪の長い女に追われる夢を見たんだって。でその話を聞いた子が同じ夢を見たらしいよ。
でさ、一昨日その話を聞いた陸上部の日本代表の子がやっぱりその夢見たらしいんだけど、余裕で逃げれたって。女過呼吸起こしてたってさ」
私が見た謎の夢は、予期せぬ形で解決したようだ
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