ショートショート 321~330

321.「運命は奪い取るものなんだよ」

そういってソイツは笑いながら鷲掴みにした髪の毛を見せてきた。

そういえば、さっき両手でおでこを隠した坊主の女性が、泣きながら猛スピードで走っていったな…

それからというものの、ソイツが勝負で負けたことは一度もない。

・・・

322.「先生、どうして昔の人は地面を歩いてたの?」

『重力なんて目に見えないものに縛られてたからさ』

・・・

323.「…って!それだと貴方…」

「…ら、けっこ…」

「…で…て」

何処からか声がする。

テレビ下を探ってみると、埃かぶった古いビデオから声がしていた。

この声は何度も何度も、自分の夢を反復しながら眠るビデオの寝言のようだった。

・・・

324.気付いたら、天の川を泳いでいた

輝く星々の中を縦横無尽に

泳ぎ、漂い、沈む

このまま泳いでいればいずれ私は死ぬのだろう

しかし自分の命とこの風景

どちらを取るかと言われれば、

私は迷わず美しい方を取ったのだ。

・・・

325.『天使と悪魔の違いはなんですか?』

「天使と悪魔の翼はわかるかい?

羽根があるのが天使で、何もないのが悪魔だ。

天使はね、人を助けるために羽根を

1枚使うんだ。

そして全ての羽根を使い切った時、

…あとは言わなくてもわかるかな?」

・・・

326.塀の上に糸電話が置いてあった。

それを手に取り、

「もしもし」

というと

『もしもし、私は宇宙人です』

と返事が来た。

宇宙人だと?そんな馬鹿な

「ははぁ、嘘つきめ」

というと、

『 何故ばれた 』

先程とはうって変わって酷く不気味な声が聞こえた。

・・・

327.宇宙の澱みから垂れた膿は水平線へ降り立ち、それは三人の悪魔となった。彼女らは産まれを喜び、月の光の下、波の揺れと共に踊り始めた。星を瞬かせた黒と紺のドレスを纏い、目元を現世と遮断させたレースで隠している。白い肌に浮かぶ唇の赤だけが、彼女らの純真で確実な悪を示していた。

・・・

328.心の底から神を慕う貴女を、

大罪へ誘惑し、堕落させて

私と同じ喜びや楽しみを与えたいと、

貴女を神から奪ってやろうと、

心の底から思っている私は

本当の悪魔なんだろうね。

・・・

328.「大丈夫ですか?!」

倒れていた僕を女性が揺り動かした。

「あぁこれは熱中症ね」

彼女はテキパキと僕の服を脱がし、頭に濡れタオル、そして僕に水を飲ませた。

『ありがとう、貴女は看護師ですか?』

「いいえ、でも大丈夫よ。

昨日ブラックジャックを読んだの」

・・・

329.貴女が本能欲望を曝け出し、食べ物を上品に貪ろうと口を開けた時に見えた赤色を見て、ああ聖女も極悪人も、結局は皆同じ、人間畜生なのだと安心いたしました。

・・・

330.ぽさぽさと雪のように君が吐き出したのは白椿だった。

胸元を握り仰向けに、口から溢れる白椿。

椿の流れと君の動きが止まった。

我に帰り抱えると、まるでビーズを零したぬいぐるみのように口からぽさぽさと出てきて、後に残るは君の皮だけだった。

僕は今もその情景の美しさに呪われている。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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