ショートショート 201~210

201.ガリ…ガリ…

クローゼットから扉を引っ掻く音がした。

意を決し、蛇腹の扉を引いたのだが、何もなかった。

「気のせいか」

ふと下を見ると、綺麗な付け爪が大量に落ちている。

ガリ、ガリ、ガリ、ガリ、

折りたたまれた扉の内側から音がした。

・・・

202.それは山の奥の清流の側にいた。

白い藁のような物を全身を纏い、それから棒のような手足を伸ばしていた。

それが飛び上がる度に透き通るような鈴の音が鳴っていたのだが、段々とその音は動きとずれていく。

動きと音が激しくなり、思わず目と耳を塞いだ瞬間、それは跡形もなく消えてしまった

・・・

203.そこは延々と続く墓地であった。

空は重圧のある赤紫色で、生暖かい風が吹く。

「これは、今までに亡くなった人の墓だ」

振り向くと緑色の仏像が居た。

「墓の有無、聖人悪人関係なく平等に、私の手の届く範囲で亡くなった人は全てここに来る。」

錫杖の音と共に、咲き乱れる曼珠沙華が靡いた。

・・・

204.夜空に綺麗な満月が浮かんでいる。

ただおかしいのはその月が2つあるという事だ。

2つをよく見比べてみると、

1つが見つめる度に、

不気味な程に黄色く黄色く輝きだした

「あっ」

声を上げるとその月はまるで悪戯のばれた子供のようにグニャリと歪み、

瞬く間に消えてしまった。

・・・

205.満月の夜は君が分散する姿がよく見える。

一人窓辺に佇み銀色に光る君は滲み、また散々に形を変えて、この夜闇に溶け込まんとしている。

その姿はまるで波に輝く月光の様。

『今晩は』

そう声を掛けると分散した彼女全員が此方を向き、なんて事ない顔をしてまた一人に戻る。

・・・

206.月夜。

ゴーンゴーン…

魂を集めていると鐘がなった。

それを合図に私達は月光へ出る。

ああ兄弟、今日も集められたか。

夏は虫が死ぬ。冬は花が死ぬ。

獣はいつでも死んでいく。

我らが決して気付き損ねず、拾い集めてやらねばならん。

死神達は大事に抱えた魂達を、夜の太陽へと解き放った。

・・・

207.月光をちりばめた波をぼうと眺めていると、その破片達が突然並びはじめた。

顔を上げると其処には月から垂れた光が破片達と繋がる瞬間があった。

私の足元から月へ続く一本のそれは宛ら橋の様で、これは是非も無いと、私は渡ったのだ。

月に着く頃に、私の遺体も上がるかしら。

・・・

208.深緑が揺れる小川に、小さな花束が流れた。

龍の髭で結われたそれは流れに寄り添い一本、また一本と色美しい花を散らして行く。

最後の一本が解けた時、ついとその白い花が彼女の指先を突いた。

熱を池に溶かした彼女は今何を見ているのだろうか。

・・・

209.朝起きて支度をして、街へ行ったのだがまったく誰にも合わなかった。

ただ地面には、まるで人が倒れて溶けたかのような形の服が大量に散乱しており、街中央の地面には大きな穴と大量のパトカーと戦車があった。

風が吹く。

待ち合わせ場所にはあの子のお気に入りのワンピースが落ちていた。

・・・

210.地面に大きな穴が空いた。

それは只管に暗く、また石を落としても何の反応も無い。

更にそこへ降りた勇敢な冒険家はもれなく一人も帰ってはこなかった。

そして遂に冒険家の端くれの僕も降り立った。

暫く降りると突然下が輝いて、そしてある声が響いた。

「ようこそ!地球新ステージへ!」

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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