191.それは許される瞬間であった
男は何百人も葬った
それは解放される瞬間であった
無実の人々を葬った
それは罰される瞬間であった
魔女など存在しないという事実
本当と正義を疑いながら火をくべた日々
罪悪感と縁を切るように処刑人は首を差し出して、飛んだ
血しぶきを見て笑う少女
魔女は、誰だ
・・・
192.男の白骨化した死体が発見された。
死後30年経っていた。
だがおかしい。
その死体のDNAを調べると先日行方不明者として探されていた男であり、また彼はまだ20歳だったのだ。
・・・
193.『夜、テントを張っていると何処からともなく踊り子がやってきた。夜空に染めた様な藍色の衣装に、これまた星のように瞬く金色の装身具を身に付けた彼女らは、きっと話に聞いた悪魔だ。』被害者の日記にて。
成る程、それで結局文字通りの骨抜きにされたのか。
クラゲの様な遺体を見て呟いた。
・・・
194.古いお金を拾ったので家に持ち帰り、磨いていた。
なんとなく、そのお金の真ん中の四角い穴を覗いてみると、そこは部屋では無く、どこか知らない花畑が映っていた。
さらに辺りを見渡すと、立派なキツネが見えた。
銀色で、尻尾が9つ。
驚いて目を離すと、そこにはいつも通りの母がいた。
・・・
195.『コンクリ詰めにした』
そう男が言ったので、その正方形の冷たいコンクリートを割ったのだが、中には何も入っていなかった。
ただ人が体育座りをしていたような空洞がそこに残っていた。
中身はどこへ行ったのだろうか。
・・・
196.夢を見た。
そこは夜の砂漠だった。
真っ黒な夜空にベツレヘムの星のような、ぎらんと光る大きな星が1つあり、砂達を光らせる。
そこで僕は探し物をしていた。
遠い昔の、過去の記憶の破片を探していた。
砂から出てきたのは古い蓄音機だった。レコードが回り、どこか懐かしい曲が流れ出した。
・・・
197.山桜の蕾が膨らんだ。
弾ける時を一目見んと眺めていると、ついにそれが開花した。
「ポン」
そんな音がしただろうか。
旋回する花の真ん中から現れたのは、蕾よりも大きな黒揚羽だった。
それはグウと伸び、まるで象の瞬きのような優雅さで羽を二三と羽ばたかせ飛んで行った。
ふと、春の匂いがした
・・・
198.マドンナが奇病を患った
身体が茶色くカラカラに、丁度枯れた花の様になる奇病だ
彼女の変貌に見舞い客は一人、また一人と減り、最期は私だけになった
「これは病気ではないのよ」
彼女が言った
「花の呪いなの。美しさの代わりに花の様に醜く散る」
そう言って笑う彼女の顔は、子供の頃と同じだった
・・・
199.酒瓶を逆さにし、最後の一滴を求めていると、
ドバリと音を立て大量のワインが零れ出た。
慌てて酒瓶を戻すもそれはわいわいと溢れ出て、息も付かぬ間に私を包んで、圧迫感と息が出来ず、もう…
気が付くと私は床に寝ていた。
夢かとも思ったが、はて、私の服はこんな赤紫色だっただろうか。
・・・
120.肺が弱く、酸素マスク無しでは生活の出来ないあの子はずっと病院にいる。
赤毛で、蜂蜜色の目をしたあの子。
僕が見舞いに行くと無菌室の窓に近寄って手を振り、笑ってくれる。
それはまるで、水族館の人魚のようだった。
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