111.その山奥の、とっくに誰も来なくなった神社の賽銭箱の中には、綺麗な花や輝く石、貝独楽やめんこなどが沢山入っていた。
早朝、苔生した鳥居の奥に入ってきた狐と狸が持ってきた宝物がなんだったのか、神様だけが知っている。
・・・
112.夏の深夜、庭からヒソヒソと騒ぐ声がした。
慌てて外へ飛び出したが、そこには花があるだけで誰もいない
しかし部屋へ入るとまた、少女のような笑い声と喋り声が外からする。
「ふわぁ…」
小さな欠伸が聞こえた。
外を見るがやはり誰もおらず、ただ眠りについた月下美人があるだけであった。
・・・
113.寝ている彼女が何かを呟いていた
耳を傾けるとそれは声とは言い難い、パレードのような賑やかしい「雑音」であった
起きた彼女に夢を問うと嬉しそうに「遊園地の夢を見た」という
あれは漏れ出した夢の音だったのか、はたまた彼女の中にある遊園地の音だったのか
まあ彼女が楽しそうで何よりだ
・・・
114.深夜に大雪が降った。
早朝、窓を開けると一面の銀世界、とその上をスルスル歩く着物姿の女性がいた。
なんとも神秘的な風景に見惚れていると、女性が此方を向いて微笑み、ズルリと足から雪の中へ入ってしまった。
驚いて駆け寄って、気が付いた。
この雪の上を沈まずに歩くのは不可能だ。
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115.『では、貴方の罪はなんですか』
受付にてそう問われた
「えっと…罪というのは…」
『…あぁ成る程、貴方の罪は己の罪がわからない事ですね』
【地獄】
僕の鬼録にそんな判を押し
『では彼方へどうぞ。次の方…』
自分の業務へ戻っていった
・・・
116.職人だった祖父は、亡くなる3年前から大きなおかめのお面を作っていた。
何故と聞いても「約束なんだ」と言うだけ。
お面が完成して3日後、祖父は亡くなり、そして作業机に置いてあったお面が紛失した。
その代わり巨大な、まるで妖怪の宝のような赤く美しい珊瑚が獣の皮に包まれ置いてあった。
・・・
117.6月の雨の日、ふと違和感を感じ辺りを見渡すと、紫陽花の美しい河原を挟んだ隣の道に、白無垢を着た花嫁が歩いていた。彼女の背後には喪服を着た人達が列を成している。
その異様な行列は雨に濡れる様子も無くゆっくり歩き、道の先にあるお通夜をしている家へ入って行った。
ただ、それだけ。
・・・
118.空き地の空間の上、何故かそこには幽霊が立ったまま浮いている。
「あそこは元々立派な家があったの。
でもそこの二階で首吊りがあって…」
下から仰ぎ見た幽霊の顔の切なさは、一体何を語っているのだろうか。
・・・
119.僕のおじいちゃんはお面職人だ。
人間用、奉納用、神様用、妖怪用…
色々な物を作る。
「ほら見てごらん!」
豪華絢爛な百鬼夜行の行列の中、可愛らしい狐のお面が浮いている。
「あれ作ったのおじいちゃんだぞ。透明人間の子に作ったんだ」
嬉しそうに跳ねるそれは、僕を誇らしく思わせた。
・・・
120.その女は笑っていた。何処か虚無を指差して。
1人が不審がりその方を向いてみた。その瞬間爆ぜるかのように笑い出した。2人、3人とどんどん人が集まり、皆同じ様に笑い出す。
ふと、笑いが収まった。
辺りを見渡すが、あの女の姿は見当たらなかった。
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