父の顔をした羊

小学生の頃の冬の話。

母親は台所で料理してて、俺はテレビを見てた。


インターホンが鳴って、母親が出た。どうやら父親がいつもより早く帰ってきたらしい。

手が離せないからと言われ、俺は玄関の鍵を開けに向かう。

廊下の奥からドアを叩く音と、「寒いー早く開けてくれー」という父親の声が聞こえた。

小走りで廊下を駆けて、玄関を開ける。


するとそこには、

父親の顔をした羊が俺の目の前にいた。


ドアを閉めどうすることもできず立ち尽くしていると、

母親は父親が帰ってきたと思っているので、なかなかリビングに来ない父を迎えに玄関に来た。

鍵が開いているのに「開けてくれー」と騒いでいるのを不審に思ったのか、母親がドアスコープから外を見る。

途端に悲鳴をあげ、俺を抱えてリビングへ逃げた。

急いで父親の会社に電話を掛けると、父親は会社にいるという。

玄関の外の声は確かに父親だったのにだ。


何分経ったかわからないが母親と抱き合ってじっとしていると、再びインターホンが鳴る。

恐る恐るドアスコープを覗くと、羊ではなく、警察がいた。

母親の尋常でない慌てぶりと、ドアの外に何かいるという事を聞いた父親がどうやら通報したという。

玄関口で警察と話していると、父親が慌てて帰ってきた。


警察は「また不審者が来たら迷わず通報してください」と言って帰った。

母親の話では、マンションの廊下を羊が埋め尽くしていて、中には俺や母親の顔をした羊もいたらしい。

父親の声を使ってドアを開けさせておいて、我が家を乗っ取る計画だったのかと思っている。

うちの家族だけでなく、廊下を埋めるほどの羊がいたということは、

ほかの住人は既に入れ替わっていて、羊の家族と過ごしているのかもしれないと思う。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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