20歳ちょっとだったか、まだ実家暮らしで無職だった時。
ウチは物凄い田舎で、家のすぐ傍が森とか山みたいな所だった。
何もやる事ないし、家にいたら親にいびられるから、近場の森をうろついてた。 その時期何かもう何もやる気なくて、どーでもいーやーって感じで、山道登りながら自分の事を考えてたら、 いつの間にかいつも歩いてる山道から逸れて、道無き森を彷徨ってた。
今のオレなら絶対取り乱してたけど、その時は別に死んでもいいやって気分。 しばらくふらふらしてると、何か細い道っぽい所に出て、藁のテントみたいなのと焚火。
そこで着物姿の人間もどき、子供とおじいさんが二人居た。
何でもどきかって言うと、常に笑顔なのよ。
しかも、最初から髪なんか無かったかの様に禿げている。 挨拶しても近づいても、とにかく
微動だにせずニターっとした笑みが張り付いてる。しかも二人とも同じ顔。 子供の方は凄まじくお肌つるつるだけど、顔立ちはしわしわのおじいさんと全く瓜二つ。 血縁と言うより、年齢差のあるクローンって感じ。
二人とも昔にタイムスリップした様な雰囲気で、「あ、この二人は人間じゃないな?」と何となく感じた。 声かけようか戸惑ってた所で、おじいさんの方が「迷いましたか」って声をかけて来て、 トントン拍子に二人の家?で休んでいく事になった。
おじいさんは話してても、「そうですか」「ゆっくり休んでください」みたいな事しか言わない無口なんだけど、 子供の方はやたら口が達者だった。
「何処から来た?」「一緒にコマやろうや!」みたいな事から、 何故か「お兄ちゃんプレステ買って!」みたいな事も。まぁ普通の子供か。
でもやたらプレステに執着してた以外に、コマとか花札とかゲーム関係全般詳しくて、
面白い話をいろいろ聞かされたし、遊びも付き合った。
そんな風に過ごしてたら、おじいさんが「どうぞ」って、お鍋で作ってた雑炊の様なものを差し出して来た。
何かね、見た目は吐瀉物のようで不味そうなのに、物凄く美味しそうな匂いがして食欲をそそった。
食材がいろいろ入ってるんだけど、匂いだけで何が入ってるか分かる。 卵とか肉とか魚とか、野菜とかとにかく入れるもの全部入れましたよって感じなのに、全てが調和されてる。
全部の食材の味が恐ろしいくらい引き立ってるのに、一つの味として成立してるような。 上手く説明出来ないんだけど、とにかく美味かった。 素人舌でも、あれは簡単に作れるものじゃないって分かる程。
他にも華の香りのする酒とか、蜜柑と魚の和え物ももらったんだけど全部美味くて、 でも何か切なくなる味で、いつの間にか涙が出てた。
そしたら子供が「どうした?」って尋ねて来て、 その拍子に今まで家族にも言えなかった事を、泣きながら全部話してた。
シクシク泣きながら、高校中退したとか、いじめられてたとか言ってたら、 おじいさんが優しく背中撫でながら相槌返して、さらに号泣。
「もう死んでも良い」なんて言ったら「今死んだら極楽に行けないぞ!まだ若いしやり直し効くって!」 みたいなオッサン臭い説教を受けた。
ちょっと立ち直って来た所で、おじいさんが麻袋を藁テントから出して来た。
「もうあなたは行きなさい。ここに居たらいけない。……これをどうぞ」 お土産のつもりだったのかそれをもらって、子供に案内されて山道まで来たら、いつの間にか子供も消えてた。
それから麻袋の中身を確かめたら、中身は石鹸。
梅みたいな香りで、嗅ぐだけでお腹空きそうな感じ。 石鹸使おうかなとか考えながらも、山歩きで疲れたから、その夜は早々に寝てしまったんだ。
突然深夜、物凄い激痛に襲われて、 「飯が当たったか!」と思いながらトイレに駆け込んだ。
治まった頃はもう朝だった。2時間くらい経ってた気がする。
しかもその後、酷い虫歯になったり2、3日熱で寝込んだり、原因不明の骨折とかが1カ月くらい続いた。 さすがにあの二人を疑った。
骨折が治ってしばらくしてから、突然酷い眠気とだるさに襲われて、 丸2日くらい殆ど眠りっぱなしの状態に陥った。
しかしなぜかそれ以来突然身体が軽くなり、快活な気分になった。
いろんな事がしたいと思い始めて、 衝動的にバイトやりまくったり、毎日走ったり、資格勉強したり、めちゃくちゃ元気。 しかも、あれから一度も風邪ひいてない。
少し経って、忘れてた石鹸の事を思い出して、これも何かあるのかなと思い、おそるおそる洗面台で使った。
するとボロッ……っと、消しゴムのカスみたいに手の垢がボロボロ出る、トンデモ仕様の石鹸で、勢いで風呂場直行。
勢任せに石鹸で身体擦ると、また出るわ出るわで、とうとう濁った油みたいなのまで出てきた。
しばらくその石鹸を使ってから、劇的に肌が綺麗になり、ニキビ肌だったのに今はつるつるになってる。 しかも、それから常に「○○って良い香りがするよな」とか言われる様になって、やたら友達が増えたりモテた。
今は必死に頑張って美容師になれたけど、それもあの二人のおかげなのかな。
でも、あの二人に出会うのが本当に自分で良かったのか。 そもそもあの二人は一体何だったのかは気になるよ。
あの後また同じ場所に行こうとしたんだけど、足が竦んで無理だった。
何故か、今行ったらもう二度と帰ってこれない気がしたから。
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