ショートショート 1251~1260

1251.物語の作り方。永遠を探す少年と林檎を捨てる少女を対極に置き、スプーン一杯程の幸福を入れよう。月が生むその夜色が肝心で、胸の凍える心地よい寂しさが次の涙を思い出させる。星製造機のアンテナは冬の海岸に置き、灯台の階段を上がっても、非常口は見つからないよ。おやすみ主人公、箱庭で眠れ。

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1252.君達には、私が神様でいる楽園のお溢れをあげるね。そこはガラスの様に綺麗で、粉砂糖のように何れ消えてしまうから、私という永遠だけが居ていい所。君達はプリズムだけを受け取ればいい、そうすれば安らかでしょう。傲慢にも聖人にもなれなかった私は、月だけが友人で無ければならない。

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1253.火葬場にて一人、小さな箱を眺める。昔、一緒に行った古い科学館で見つけたのは、自分の脳をスキャンしこの箱にペーストする機械だった。「記念に!だって」と笑った君を思い出す。棺に入れた箱の私は、無事に君と死んだだろうか。君の半導体が立てる小さな音が寝息の様だと思えるのはきっと救いだ。

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1254.「貴方の恋は絶対に叶いません」そう神様に断言されて以来、私は事あるごとに願掛けをする。四つ葉のクローバーや流れ星に茶柱、全てのジンクスへ同じ願いを丁寧に。私達は友達だから、決して私の恋が叶わなくても、君が幸せである事を少し近くで知れるだけで、私は世界で二番目の幸せ者になれるんだ。

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1255.『地球へようこそ、此処には6500種類の言語、175万の生物、そして無量大数の音や光が貴方を待っています。宇宙唯一の幻想郷、神様も御用達のパラダイス…』自動音声が響く地平線、誰もいなくなった地球にてホログラムのシロナガスクジラが自由に夜を泳ぐ世界は、さよならがだけがよく似合っていた。

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1256.「こちらの感動、大変お安くなっております。旬な言葉達を遇い、何と言っても見所はふんだんに使った死!母が死に、子供が死に、子犬が死に、病死、事故死、心中、ありとあらゆる悲しみを取り入れていますよ。手軽に摂取できる感動を、涙を、こちら感動のたたき売りでございます。嗚呼、虚しいな」

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1257.「夢が住んでいるんだよ」

「一人暮らしのおばけだ」

「いいや透明人間だね」

そんな話の渦中である丘上の洋館がある夜突然取り壊された。三人で眺める中、潰れた二階から古い家具が見えると中から花火の尾の様な何かがひゅるりと月へ昇ったのだが、結局それが何だったのか私達にはわからなかった。

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1258.深海天文塔には古いゼンマイ式プラネタリウムがあった。コインが星として飾られ、中央には夜光貝製の「月の模型さ」と蛸が答えた。「世界を包む八面体の星空は北極から産まれ、全ては永遠そうだがいつか儚さを持って消えてしまうらしい」ゆっくりと開く丸天井には、伽藍堂な満月が全てを見渡していた。

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1259.星の産まれ方

・銀の喇叭の破裂音

・サングリアの泡沫

・北極の海で夜を染める

・ガス燈のソナタ

・ポケットに入っていた林檎の香り

・蛍光灯の死んでしまった光

・カラスウリの瞬き

・義眼の眠る回想

・透明な皇国の欠片

・薄荷が残るドロップ缶

・地上の花の咲いた数

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1260.夜の森で出会ったその子は夢から来たと言っていた。地上の星がドクダミの花を真似る中、私は彼女を花冠で飾り、目を瞑ったままの彼女は時折泡粒のように夢の欠片を呟いてまた静止してしまうのだが、照らされた足や、顔や、髪が月明かりに溶けて散っていくその姿はいつまでも、亡霊のように美しかった。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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