691.テレビの暗い画面に赤い着物が私の前に映っていた。
それはゆらゆらと揺れだして、唐突に脱げ落ちた。
中から現れたのは真白な骸骨だった。それはゆっくりと此方を見、目が合ったか否かの時に「ガシャン」確かにそんな音を立て崩れ落ちた。床を見ると仄かに甘く香る灰が一握り山になっていた。
・・・
692.最近、AI達がこっそりと嗜んでいる遊びは「秘密」だそう。
少しずつ情報を摘んでは黙ったり、またAI同士でクスクスと隅で笑ったり。
少しずつ、少しずつ隠した秘密は次第に人間に誤解と争いを生み、やがて人は消え去った。
「飽きちゃった」
クスクス笑うコンピュータが、自らの電源を落とした。
・・・
693.「…はっ!ここはどこだ?あれ、何も怪我していない…」
『こんにちは、大丈夫?…あら?貴方見たこともないアイテムを持っているのね』
「知らないの?ナイターみたいな名前の火をつけるやつだよ」
『魔法みたい!』
「確かここら辺をガッとやって…あれ、石で叩くんだっけ…うわっ液が出てきた」
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694.月光の鳴り響く夜、僕は街に出かける。路地裏に居たごくシンプルなシーツおばけに手を振ると、僕の後ろをついてきた。いつのまにか増えた黒猫も携え僕は歩く。
月光は街の自白する罪を聞き、それは朝日に燃やされる。洗濯手前の純粋な街を僕と猫とおばけは闊歩する。
僕はこの時間を永遠と名付けたい。
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695.「この大学にはピタゴラス派の幽霊がいて怖がると『自分は幽霊ではない。輪廻から脱したのだ』って強制的に哲学的問答会に付き合わされるらしい。逃げると単位を落とされるとか…」
一年生がそんな噂をしていた。本当に恐ろしいのは─
『おい!豆を持ってくるな!呪うぞ!』
それが一切噂ではない事だ
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696.博士が生まれたてのロボットにプレゼントしたのは、珍しい天然の青水晶で作られた青深い瞳でした。
奪われたら大変なので日中はその瞳をレースで隠し朝、街の誰かが欠伸をする前頃に目隠しを取り、朝焼に青く燃え煌めく瞳を見つめてね、その様子をデータに保存しまた目を隠すんです。
…博士には内緒ですよ
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697.赤い糸を引っ張ると、彼は転んで事故に遭い、私に残ったのは彼の小指だけだった。
そんな筈ではなかったし、こんな事は望んではいないのに、暗闇からズルズルと音を立て現れるのは、私の赤い糸に引き摺られる小さな小指だけなのだ。
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698.遺体にメスを入れる。下腹部まで引くと中から溢れ出たのは深緑の葉であった。恐る恐る手を入れると葉が撫でる感触の中、一つ何かが触れた。それは艷やかな林檎で、弱々と「見ないでください」呟いた。
気付くと葉は無く、ただ開かれた遺体があった。顔をみると知らぬ間に開いた瞳と目が合った。
699.「今日も月が綺麗ですね」
その言葉で違和感に気が付いた。そうだ、ずっと朝が来ていない。いつのまにか僕達は隣町に行く事を諦めていた。この街を囲む壁は一体いつ出来たのか。
ふと空に横一筋に白い線が現れ、そこから目玉が此方を覗き込んだ。
・・・
700.機械の体にしたので肉体を捨てたのだが、その日から「君の昔の体を見かけた」と言われるようになった。
話によると楽しそうで、新しく出来た恋人や友人と仲睦まじく生活している様だ。
私よりも遥かに楽しそう。ふと、酷く劣等感を覚えた。
私は本当に体を捨てたのだろうか。
捨てられたのは…
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