681.宇宙のどこかには、私達生命が断念した穴だらけの数式の墓場がある。
いずれそれは芽吹き、新しい生命に完成した形で着想、および出産されるだろう。これはいわば生まれ変わりである。
地球の内側には存在する無、0、白、化石が埋まってている。いつか私も、私の化石を掘り出すかもしれない。
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682.深夜林を横切ると馴染みある音がした。探してみると奥に不法投棄された洗濯機があり、それが動いているのだ
ゴウンゴウン─
中々蓋が開かず奮闘していると「入っています」中から男の声が聞こえた
翌日、やはり洗濯機はあった。すんなりと蓋は開き、中には濡れた藁人形が一つ、此方を見ていた。
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683.前が未来と誰が決めた。
反骨心から時間の後ろを向き立つと、やはり時間の進行方向は一方通行の様で、僕は時間を遡った。
確定過去は省略され一瞬で僕の誕生を追越し僕の世界の外へ飛び出す。
未体験の過去は不確定で真白く、背後の未来は遠ざかり、僕は方向無く進む。
ざまをみろ、これが僕の未来だ。
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684.この地球とは時間を作る装置及び農場である。
「人間」という個から時間感覚を発生させ、相対性理論的に個々からずれ出した時間を搾取する。
その時間は何に当てられるか?
神、及び創造主の休暇だろうと推測されている。
ならば神様はどこで休暇を取るか?
一般的にラスベガスだと言われている。
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685.「陽とは、やはり暖かいのかね」
私の友がそう問うた。頷いたが伝わったかは定かではない。
ある日友は血を流し私の元へ駆け込んだ。彼は此方に微笑むと私を包む陽に焼かれ私に優しく降り注いだ
それ以来、私は枯れる恐れがなくなった。友のいないこの城にて、私の中の彼と共に陽の暖かさを分かち合う
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686.「彼」とは友人だけが覚えている人物である。いた筈なのに突然この世から、誰の記憶から消えてしまったらしい。
彼は消えるに惜しく、ならば自分が彼を覚え、彼の日常を紡いでいけば彼は目に見えぬだけで存在するのだ。
そんな持論を展開する友人に僕は毎日問いかける
「今日も彼は元気?」『勿論さ』
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687.「ぎゃあ!!…あれ、案外平気だぞ。
それよか先程より体が軽いじゃなゐか。疲れなく、何より気持ちがいい」
「そうでしょう!皆に勧めたいのだが逃げてしまって」
「うむ、やはり成らないとわからないか…」
『逃げろ!追ってきたぞ!』
「こらこら待ち給へよ
いいものなんだ。ゾンビになるのは」
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688.「私が殺しました」
女が白状した。長い睫毛を陰に、赤い唇を開いた
「こう、ナイフをするりと」
夕日だろうか、輝く輪郭が心地よく、目が離れない
「どうしても疼くのです」
悩ましい香りがする。脈打つ喉に彼女の白い手が触れる
「嗚呼、貴方も殺したい」
それは酷く甘美な誘惑だった
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689.シャワーの音がした
先程まで入っていた風呂場からだ
行ってみると電気がつけられシャワーを浴びる人影が見える。
驚いて開けると先程とは打って変わって暗く、湿気の残るだけであり誰もいない。
見間違いかしら。
戸を閉めるとあのシャワーの音と光と、異様に大きな人影が戸の前に立っていた。
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690.「神様は僕達を愛してはいるが、僕達人間の鳴き声は理解していない」
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