追いかける老婆の夢

ちょうど一年ほど前、こんな夢を見た。

気がつくと俺は小学校の体育館の入り口に立っている。

体育館にも後ろのグラウンドにも誰も居ない。

入り口にぼーっとたったまま、グランドに出るか体育館に入るか迷っていると、突然大きな怒鳴り声が聞こえた。

びっくりして辺りを見回すと、体育館の奥にぼさぼさの白髪頭で短い着物のような物を着た、鬼のような顔の老婆が立ってる。

なんだあいつ?と思った瞬間金切り声をあげ、カマのような物を振り回して向かってきた!!

ヤバイ、と瞬時に思った俺はグランドへ逃げた。

グランドを突っ切って校門から外に出ようと必死に走る。

それなのに、なぜか全く校門に辿り着けない。

グランドがどんどん伸びて、ついに校門が見えなくなってしまった。

なんでだよ!!と思って泣きそうになった瞬間、老婆のシワクチャで長く鋭い爪を伸ばした手が、おれの肩を掴んだ。


そこで、目が覚めた。

なんだ夢か…と体を起こす。

するとそこは、小学校の体育館だった。

え??と思って、ふと、額に違和感を感じた。

自分の左に指で触れてみると、鶏肉の塊のようなものがベットリと付いている。

なんだこれ?と指についたそれを眺めていると、体育館の入り口に気配を感じた。

そこには老婆がいた。

ぼさぼさの白髪頭で短い着物のような物を着て、そして顔はとても優しい笑顔だった。

先ほどの夢とはまるで違う顔だが、同じ人物だとなぜだか思った。

その老婆の顔を見た途端、懐かしいような切ないような泣きそうなような、そして今まで感じたこともないくらい幸せなような、

そんな安心感を覚えた。

なぜだがわからないが、ああ、ここに居たんだ、俺もここに居るべきなんだと思った。

すると、その老婆が優しい笑顔のままヒョイとグランドへ行ってしまった。

俺は走って追い掛けた。

俺がグランドに出た時には、老婆はもう米粒ほどの大きさに見えるまで遠くへ行っていた。

俺は走った。

少しずつ少しずつ、老婆に追いついていく。

物凄く幸せな気持ちで、走った。

そこで、本当に目が覚めた。


その日から、俺は時々老婆を追いかけている夢を見る。

とても幸せで、嬉しくて、ずっとこの世界に居たい……そんな気分で走っている。

老婆との距離は、夢を見るたび少しずつ縮まっている。

この夢は、本当なんなのか全くわからない。

でも、今ではこの夢が見たくて見たくて、老婆を追いかけたくて追いかけたくてたま、ない自分が居る。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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