子供の頃の僕たちは、ゴールデンアイを友達の家で遊んでから、エアガンを持って山に遊びに行くのが習慣でした。今思えば、山にエアガンで遊んでから、家でゴールデンアイをすれば良かったのだと思いますが、ゲームで気分を高めたかったんでしょうね
山で遊んだ人ならわかると思うのですが、とても暗いです。僕たちが一時間も遊べば、冬ならかなり暗くなります。
その日は友達がかなり奥まで進んだせいか、戻る頃には本当に真っ暗でした。一人だけ懐中電灯を持っていたので、その子の服を掴みながら数珠つなぎのように下山していました。
で、歩道まで戻ってきたのですが、一人友達がいないのです。
最後尾にいた友達が消えており、その子に服を掴まれていた友達が
「え、ずっと掴んでたよあいつ」
と言いました。
みんなで顔を合わせ、誰が戻るかを空気感で決めていました。
しかし、大体こういうときは僕なのです。当時の僕はかなり太っていて、よくからかわれていました。よく言えば頼りにされていたようですが、僕含めてみんな臆病で、真っ暗な山に戻る勇気なんて一切ありません。
「行ってくる」
結局は、僕がこういうのです。
懐中電灯を持って山に戻り始めました。
赤く大きい懐中電灯は、その派手さに似合わず光源が弱かったのですが、山では精神的な支えになりました。左手のエアガンも不思議と安心感がありました。
どんどんと進んでいくと、立派な川があります。
たまに僕たち以外にも釣りにくる人がいるみたいでした。
川沿いはまだ整備されているので、そこを進んでいくと、川の中に友達が立っていました。
溺れるような水位はありませんが、大人の膝ぐらいまではあります。
「おい、何してるん? 帰るぞ?」
僕が問いかけてもピクリともしません。
「おーい」
何度か友達に向けて叫びました。
痺れを切らした僕は、川まで近付きました。そこでも叫びましたが、友達は返事もしません。
意を決して川に入り、友達の所まで小走りで向かいました。
「何してんねん、帰るぞ」
「話してるねん」
友達を見ると、ずっと川の中を見ていました。
川の中を懐中電灯で照らすと、とても大きな魚が泳いでいました。
僕は恐怖しました。川には友達と魚釣りをしていましたが、ここまで大きな魚を見たことが無かったからです。テレビで見るような鮭ほどの大きさで、全身が真っ黒でした。
「ここで、どっちかはおらなあかん」
友達がそう言うと、虚な目で僕を見ました。
「帰るで、みんな心配してる」
僕は友達にそう言いました。友達に触れようとしたのですが、何故か動いてはいけないと思いました。その魚を追い払おうとも考えましたが、それをしてはいけないと感じました。
「置いて、いね」
友達がしゃがれた声でそう言うと、僕はポケットからお菓子を取り出しました。その封をあけてお菓子を川に落としました。その時、何か吹っ切れました。
友達を掴み、全速力で来た道を引き返しました。
山から抜け出すと、友達が待っていました。
友達は僕の姿を見て驚いていました。
靴は片方脱げ、友達の服はビリビリに破れていました。
あとから、川に入ってた友達に話を聞いたところ
「女の人と話したような」とのこと
本人は服を掴んだところまで覚えていて、そこからは僕と一緒に山を出たところまで記憶がないようでした。
この前、実家に帰省した時、山に置いてきた靴とエアガンがゴミ箱に捨てられてありました。苔が生え、どこか不気味でした。
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