651.やっと思い出したので、私は君との約束した丘へ行きました。確かにそれは楽園での約束だったので、随分私も変わりましたが、彼女は確かにあの頃の美しい心のまま、一輪の百合となりそこで私を待っていました。
星が降る。
「待たせたね」そういうと彼女はふるふると揺れ笑いました。
・・・
652.まず展開図で、私達は別の所にいます。私の隣は翠銅鉱と蛇苺が一つづつ。区切る地平線はさいはてで、魂の帰る場所であり、上には月がいます。彼の隣には魂と海がいます。私は会える確率を床に並べますが、点Pよろしく私を探す彼は些か捉えかねます。
これがやがて巡り会う、私達の140文字の物語です。
・・・
653.石に耳を当てると中から水の音がした。割れ目から飛び出したのは宝石の眼をした鳥だった。それは飛び立ち、陽に光って消えていった。
中は水胆礬であった。
眩む緑と鳥と同じ青の輝く、小さな密林だった。
いつかまた鳥が帰るかもしれない。
片方は鳥の故郷とここへ置き、片方は私だけの森にした。
・・・
654.「親から貰った大事な体」も「神様から頂いた尊い命」も結局はみな他人事なので、私は最高の、『これぞ私の蒐集物!』と狂える様な最期を常々考え生きております。素敵な自殺、素敵な他殺、ああ其れ迄は生きねばならぬ!
・・・
655.「完璧の次に待つのはいつも頽廃だ。
だから僕は完璧を作るとその時のぼくを殺すのだ。そして標本にし虫ピンで刺せば、そこはぼくの墓となる。するとそこは永遠なのさ。
蒐集部屋とは標本箱と同等である。
いつか本当の僕がしんだら、皆に会えるだろうか。そしたらそこを僕の本当の墓にしたいのだ」
・・・
656.詩のレシピ
だれのでもない鉱石 … 一つ
思い出にうつる野花 … 適量
少女 … 一人
死 … 少女と同量
唯それだけ
・・・
657.床からトントンと叩く音がする。
だが床底を剥いでも何も出ない。
トントン、、トン、トントン
変則的で「成る程これは所謂トンツーか」とある夜耳を澄ました処、『此方はとても楽しいよ』『暗くて狭くて星がある』『ここがどこかわかるかい』と笑っている事に気がついた。
・・・
658.君の瞳のなかに魚を見つけた。
ああ、君は自由だから。
僕はあとどれ程、君の瞳に姿をうつせばその海を泳げるのだろうか。
どうか君よ、笑顔であれ。
・・・
659.「おじいさんは一人、山奥で暮らしました」
めでたくない、めでたくない。
自分で作った物語がとても不幸に思えたので、私は消してあげる事にしました。思えば消しゴムはお墓の形に似ています。
ゴシゴシ、文字は三次元のゴミに形を変え、「やめてくれ!」そんな断末魔も綺麗さっぱり消えるのです。
・・・
660.ラピスラズリの夜が来た
深海にさす光の色
海と空が混ざる色
それは踊るにもってこいの夜であり
全てを思い出すに最適な日である
海月や魚
鯨や蛸
追い越し掻き分け
楽園の頃の約束を果たしに海へ向かう
ああ君よ、久しぶり
0コメント