591.真の幸いを探しに夜行列車に乗りました
1/fに揺れていると、月を撒く海が見えます。輝く波は白い貝殻を一つ、私に渡しました
これが幸福やも知れぬ
そう思い持ち帰ると、昨夜の確信とは一転し、貝殻は神秘を失っていました。そんな貝殻を君は綺麗と言います
その瞳には昨日見た輝き全てがある様でした
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592.その旧式宇宙服は深海でも使えるらしかった。なので私は深海でないが近場の海で使う事にした。旧式らしく服は重く、そのおかげで海底を歩く事ができる。
珊瑚を越すと朽ちた船を見つけた。水面が日を散らし、ステンドグラスの様な影を作る。
そこで私はただぼんやりと、行き交う魚達をずっと見ていた
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593.昼間の星は、なんと言って光るのかしら。
それは世界の秘密であり、また宇宙の気にしていない処で、私達はそれを見る事も聞くことも出来ずにおり、また宇宙も星も、そんな秘密など知る由もなく、ただ昼間の地球と宇宙の間に挟まれた空虚な白い星だけが、誰も知らない言葉で何かを呼びかけている。
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594.古いノートを開こうとすると「開けないで」と声がした。
「私は貴方の落書きです。きっと貴方は開ければ懐かしいと思うでしょう。それが辛くて堪りません。私は貴方の新鮮でいたかった」
ノートを抱きしめ開くと、私が幼少に描いた落書きがあった。
久しぶり、と呟くとやがて鳴き声は消えていった。
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595.「私達は私達であり、個々なれど共通したもので御座います。消えれば私は確かに死に、また地球の奥深くへ戻るのです。」
蝋燭の炎は消え入りそうな声でそう話した。
『またいつか君に会えるのだろうか』
「望むのなら、意志を持ち、貴方の最期を私が送りましょう」
辺りがプツンと暗く染まった。
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596.目覚めぬ彼女の口から溢れたのは、あのルビイであった。
病床にて、彼女はその赤い石を飲み込んだ。「私は長く御座いません。きっと死に際この石を貴方に渡しますのでどうか、お側に」
ころころと私の側に転がるそれは一層紅く染まっており、「ぎらん」その奥の輝きと目が合った気がした。
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597.廃墟にて、コソコソと声がする。探してみると声は障子の向こう側、二人の影が耳打ち小声でコソコソ話をしている姿が見えたのだ。
「脅してやろう」
そう思い、勢い任せに障子を開くも誰も居ず、ただ二人分の影絵人形がパタンと倒れるだけだった。
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598.懐かしい香りだ
珈琲をふぅと味わうと白いカップに金色が芽吹きだした
瞬く間に姿を変え一つの宝が出来た頃、私は清き虚となっていた
「行き先は此方です」
マスターの声がする
美しい記憶を持っていたのだね
私はカップを壁に並べる
ここは黄泉の喫茶店。皆が忘れた記憶を、私はずっと覚えていよう
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599.「私の言動全てが、何かのオマージュになればいい。そうして、私から出る全てが完全に映画小説やらの切り貼りとなった時、その奥でその場に適した切り抜きを提示する思考こそが、それこそが真の私となっていたいのだ。」
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600.井の中の蛙は、そこから見える世界については誰よりも詳しかった
雲の流れから気温を察し、空の色から天気を予測する。井戸を覗かれるタイミングも天文学的に推測していた
だがこの世界も例外だらけであり、今日の様にきらり光る宝石が落ちてきた時には、やはり世界は楽しいと蛙は小さく跳ねるのだ
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