531.夢を見た。宇宙の夢だった。私の眠っていたベッドが白く、夢現に輝く。ベッドの下は天の川だった。足を漬けると仄かに質感があり、じわりと暖かい。流れて行く星々の灯りに見覚えがあった。それは、今までに私が見届けた電灯の光だった。またいつか。長い列を続け、それは太陽へと帰っていった。
・・・
532.丸まって眠る彼女の影が、ステンドグラスの様に輝いていた。きらり、きらりと光を透かせた万華鏡の様に七色達が踊り、彼女を模って瞬き合う。
次第に色達は、ぐるりぐるりと円を描き混ざり合い、すっかり溶けて、最後の色が黒へと変わった時、
「おはよう」
彼女がゆっくりと目を開けた。
・・・
533.今年の春分は有名人がかなり来たのでてんやわんやだった。言い訳ではあるが、だから遅れたのだ
「やっと閉められました。いやはや、有難うございました」
『お互い様ですな。こちらは一応八月に合わせ開ききれそうです。やっと夏ですねえ』
天国地獄大地獄
地獄の釜は夏を呼び、天国の冷蔵庫は冬を呼ぶ
・・・
534.それは確かに廃車で、動きは無く、人の気配の一つもない。
深夜、山奥の国道で見つけたその錆びた車の窓が、まるで息をするかの如くゆっくりと、白く曇っては引いて澄み、曇っては澄みを繰り返している。
・・・
535.夜である
我々詩人は、小説家は、画家は、音楽家は、我々創作家は夜になると人知れず目を閉じ、己のどこか、しかし確かにある狂気への蓋を開け中を覗く。それは己と目を合わせる事であり、また中身が溢れた場合、それは己の天変地異に近い。天から舞い降りたとは狂気の穴から飛び出したと同意語である
・・・
536.「彼は偉大だ」「彼なら私達の願いを叶えてくれる」「彼などいない」「彼は確かにいる」
その星の人々は時折第三者の名前を出す。だが簡単に会える存在では無いらしく、しかもその星の全員が一度も会ったことがない。が、いずれきっと会えるとも言う
酷く不気味だ。早く地球へ帰り、神へ祈りを捧げよう
・・・
537.蛍光灯が死んだ。寿命を迎えたのだ。
弱く、白々と光っていた光は美しさをそのままに、もう身体は要らんよとガラス瓶を抜けて行く。
向かう先は太陽だ。
光の元である太陽へと帰って行く。嗚呼きっと、また何処かで会いましょう。
暗く銀に光る部屋、彼の代わりをする様に、月が私の部屋を照らしいる
・・・
538.可能性を締め括るのが絶対である
絶対というからには絶対で、これは生物が口遊むようなものではなく、概念規模の絶対である
いわば可能性とは人生であり、絶対とは死なのだ
結果とは異なり、結果とは工程を飛ばす何かの事で、いわば「生きた 結果 死んだ」である
これは絶対ではない
私は死ではない
・・・
539.無責任に生きろと言いすぎだ
それは野生動物に餌を与えているのと同じで、世界は優しいもんだと思い込み、ではと飛び込むとすぐ轢き殺される。皆が皆他人の生を望んでいるわけではないのである
生きろ、だが面倒は見ない
これが生きろの正体で正しく訴えるなら「生きろ、そして死ね」だと思うのだ
・・・
540.煙草を吹かし月を見上げていると何か足らない事に気が付いた。そうだ、煙が無いのだ。周りを見渡すと、吐いた煙は重く重く下へと溜まり、私の足元は煙の海になっていた。
煙の中から誰かが足を掴んだ。腕を首を頭を掴んだ
とぷん
海が晴れるとそこには煙草があったが、いずれその火も消え去った
0コメント