511.元々世界には野生のWiFiが飛んでおりそれを視覚化したものがルーターやマークというだけで、どうにか捕まえれば山奥でもネットに繋がらせる事はできるが何しろ野生な為パスワードが人間の為ではない言葉(或いは有の為の言葉)であったり不意に無限へと繋がりデジタル世界の根元に迷い込む危険がある。
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512.コロン
やっとペンを置けた。
酷く長い物語のシナリオを書き終えたのだ。何十億もの登場人物を登場させ全てが歯車に、全ての伏線を織り合わせ回収した。物語には死や愛、奇跡や崩壊、そんな腕白なものをうんと詰め込んだものだ。
「さて、」
神がシナリオを閉じる。
これは宇宙が回り出した瞬間だ。
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513.「私は神様に魂を売ったんだ」
芸術のね、と、ある有名な芸術家が言った。
「死んだら貴方の元で素晴らしい絵を書き続けますから、という契約をね。
それを証明する為、私は常に最高の作品を作るんだ。…私の絵は神の御許に似合うだろうか?」
指を組みそう話す彼は遥か遠くを見上げていた。
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514.小さな棺桶だった。そのハーバリウムには健気な花と共に、一輪の宝石のような妖精が入っていたのだ。
「ひどく美しかったので惜しく思い、せめてもと花を入れたのだ。」
許してくれ、と誰に呟いたかはわからないが、一粒涙を零し瓶越しに口付けをする彼は、王子にも魔女にも見えなかった。
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515.その猫の名前を呼ぶのは苦労した。
何度私が付けた名前を呼んでも微動だにしないのに、母猫が一度「ニャア」と鳴けば一目散だ
もしやその「ニャア」が母猫の付けた本当の名なのか。そう気付いてから私の特訓が始まり、先日やっと此方へ来るようになった。「良い名だね」そう言うと自慢気に小さく鳴いた
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516.たまに音楽を聴かずぼんやりと散歩をしている時に、風の音や葉の擦る音、何かそういった自然から出る音を聴いた時、無性に、まるで素晴らしい音楽を聴いた時のように心が躍るときがある。何かが始まるような初々しい気持ちである。
私は確かに何かを聴いた。きっとそれはその瞬間の私しか知らない曲だ
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517.「私の娘は…?」
催眠術には禁断がある。
それは「一生を体験させる」というものだ。少年にかけたところ、勉学から就職、結婚、愛する娘の誕生まで、
傍観者の体感にして一分、少年はその間に50年を体験したのだ。
突然時間と家族を奪われた少年。二度と会えぬ可愛い娘を、彼は今日も探し歩く
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518.狐に摘まれた時は、狐目ではあったが、上手な化け物を見た。
狸に摘まれた時は、ずんぐりむっくりだが上手な人間を見た。
愛猫に摘まれた時は、優しく狩の指導を受けた。
愛犬に摘まれた時は、彼は二足歩行となり手を繋ぎ散歩をした。
不思議な夢をみた。
何故か痛む頬を撫で、今日も三人朝を迎える。
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519.満月のいたく静かな光に起こされ、私は午前二時半前、住宅街を散歩した
草木の寝息。陰陽のコントラストは極端で。見上げながら歩いていると曲がり角へ躍り出た。横を見ると袋小路で後ろを見ると壁だった。しまった。これは何かしらの罠だったのか。二畳程に閉じ込められた私の真上には完璧な月がいる
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520.友人の家にはお化けらしきものが出る。らしき、というのはそれがほぼ大抵の人に見える事と、それが白い人型の靄であり、更には天井より巨大故か背中を屈めているからだ。
私達人間の干渉は受けず、しかし存在は見えている様で歩く時は家具や私達に当たらぬ様(当たらないのだが)跨ぐのだ。
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