361.その腐らない亡骸は死んでなどいなかった。
美しさから神の加護を受けた聖女と語られ愛された亡骸は、そう、良いように思い込んだ人間の勘違いだったのだ。
睫毛についた埃を裂き、眼が開くと愚かな信者共の置いた百合が黒く染まった。蜘蛛は彼女に敬意を払いお辞儀をする。
彼女は災悪だったのだ。
・・・
362.全ての音を知る男がいた。
絶対音感だろうか、楽曲から自然、人工音、耳に入る全てを理解していた。
晩年彼は作曲に専念した。聞くと「死神の行進が聴こえる」という。それは美しく、今までに聴いたことのない音らしい。
「楽譜を僕と燃やしてくれ。死神に見せるんだ」
これは彼の遺言だった。
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363.それは掌サイズの箱だった。
正方形のそれに開け口は無く、1つ穴が開いているだけ。
中を覗くと、セピア色の部屋が見えた。
男がいる。何かに跨り包丁を振り上げ、下ろした。
しばらく眺めていると血濡れた男がふらりと此方へ歩いてきて、「ドスッ」
顔を退いた瞬間、箱からサイズの似合わぬ包丁が飛び出した。
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364.「12:12の様に、ゾロ目や時間と分が揃うと好きな人が自分の事を思っている」
私に想い人はいないが、そんなジンクスを聞いてからツイッターなどでスクリーンショットを載せている人の時間がゾロ目だと、「この人には好きな人がいて、そしてそれが順調なのかもしれない」と思い、少し温かな気持ちになる
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365.彼女に髪ゴムを返し忘れてしまった。
なんの変哲もない、学校指定の紺色の、少し細い髪ゴムだ。
すぅと大きく息を吸って、私は髪ゴムを握りベッドへ潜った。
彼女の香りがする気がする。
きっと彼女はこの髪ゴムの事など気に留めていないだろう。
私のを偽って返そうか、新しく買って返そうか。
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366.性別さえも、一緒がよかった
『なまえの無い恋文』
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367.ハンミョウに着いて行くとそこは猫の集会だった。
猫達は僕に駆け寄ると「ほお、彼が大将の父親かね」『優しそうだ』と騒いだ。最近僕は子猫を拾っていた。
「大将、これで7度目の死か」
一人の猫が泣きだした。
以来僕の家には猫が集まる。
元気だろと僕が言うと、嬉しそうにニャアと鳴いた。
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368.その箱には生首が二つ入っていた。
一つは美しい女性の、もう一つは不気味なミイラだった。
「世紀を揺るがせた魔女、それは首だけでも油断はならず、従って聖女の首を護りとし入れる」
どちらが魔女なのだろうか。
しかしこれを入手してから女性二人の割と楽しげな会話が聞こえるようになった
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368.「願いを叶えたぞ。約束通り貴様の目玉を貰おう」
『何?お前、お前の力不足で、俺が妥協しまくってやっと叶った願いじゃないか!それで目玉二つも取るのか!』
「いやでも約束事で…ううむ、なら一つで…」
『納得できん!もっと減らせ!』
…
「それでどうなったの?」
『少し目が悪くなった』
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369.空き地の空間の上、何故かそこには幽霊が立ったまま浮いている。
「あそこは元々立派な家があったの。
でもそこの二階で首吊りがあって…」
下から仰ぎ見た幽霊の顔の切なさは、一体何を語っているのだろうか。
・・・
370.私は長く生きている。どのくらいかといえば、大体の魔法が使えるようになるぐらいだ。
長い年月、終わりゆくものも見れば新しく生まれるものも見た。
その中でも電子レンジは素晴らしい。
私は料理はてんでダメだが、これがあれば美味しい料理が作れるのだ。
長生きはするものだとしみじみ思う。
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