カミコ

うちの曾祖母さんの生まれた村にはカミコって呼ばれる神事を取り持つ巫女(厳密には男でもなれるから巫女じゃないけど)がいたんだけど、

カミコさんになる条件は、1つが双子の妹である事、もう1つは先に生まれた姉(兄)の肉を11歳の時に食べる事だった。


曾祖母さんの代に最後のカミコさんがいたという

ただ「カミコ」というのは本当の名前ではなく、その子を呼ぶ時の名前は別にあったらしい


まだ子供だったひい祖母さんは母親から「カミコさんには神通力があるから好くしてもらえ」と何度も言われたそうだ

でも当の「カミコ」さんは親達の扱い以外は回りの子と全く一緒で普通の子供だった

ただ変わったことに、月に一度、村で管理されている塩屋っていう会堂で保存されてる塩漬けの鹿肉が村人皆に振る舞われる行事があるのに

「カミコ」さんは親に一度も肉を食べさせてもらったことが無いと言っていたらしい 

(「塩屋」とは屋号みたいなもので実際は村の集会所

塩が貴重だったため村単位で塩を一括購入し定期的に分配するシステムだった

当時冷蔵庫のような食肉を保存する場所がなかったので塩屋が一括して肉を塩漬けにし、保存していて、月に一度集会と労いを兼ねて肉と酒が振る舞われ村人のちょっとした楽しみになっていたらしい)


ひい祖母さんは「カミコ」さんに何故か聞いてみたら

「12歳になるまでだめ」「生き物の殺生は絶対してはいけないよ」

と両親にキツく言われているそうな

両親も厳しい人だったらしいが、肉を配る塩屋の仕切り役の人も「カミコ」さんにやたら厳しかったらしく

塩屋に近づくだけで大激怒していたらしい

(そもそも塩屋には子供は近付いてはいけなかったらしいがカミコさんだけは名指しで怒られていた)


そんで「カミコ」さんが12歳の年、小さな祭事が行われた

祭事は「カミコ」さんと村の大人数人で行われ、ひい祖母さんの母親もその祭の役員として参加していた


その年から「カミコ」さんの事を「カミコ」と言う大人はいなくなり

「カミコ」さんも回りの大人からあれやこれやと口煩く言われることも減っていったらしい

祭事の後、ひい祖母さんがカミコさんにその祭りの内容を聞くと

服を着替えてお酒と肉料理を振る舞われたそうな

その後、時代の移り変わりもあり、村は徐々に開いていき、他の村や町と頻繁に交流を持つようになり

村の文化や信仰も徐々に変化していった


そんでひい祖母さんが立派なレディに成長した年に

ひい祖母さんの友人が村で双子の男の子を出産した

出産した友人は交流のある町の坊っちゃんと密かに交際していたらしく

双子の出生に村の大人たちは酷く狼狽えた


ひい祖母さんは、その理由を母親に尋ねたところ、今まで知らなかった村のしきたりを教えられた

母親が言うことには「双子が産まれた場合、先に産まれた子は「カミコ」として育て、後に産まれた子供を「オニコ」と呼び、その場で母親が殺し、首を落とす」というものだった

今までは村の中だけのしきたりと信仰だったため、なんの問題もなかったが、

今回は他所の男との間にできた子ということもあり問題になったらしい


曾祖母さんが死ぬ2ヶ月前に親父も爺ちゃんも知らないこの話を俺にだけ聞かせてくれたのにはそれなりに訳があったんだと思う

そしてひい祖母さんを驚愕させたのが問題の「オニコカエシ」

当時の村人は本来なら一人分の体に一つの魂を持って生まれてくるところを

大きな魂が宿り、神と鬼に別れて生まれてきてしまった、と考えており

「オニコカエシ」の名前の通り、12年間塩に漬け浄化した「オニコ」の肉と魂を「カミコ」に「返す」という儀式だったらしい


「オニコカエシ」は「カミコ」が数えで12歳になった時に行われる祭事で

塩漬けにして保存した「オニコ」を「カミコ」に食べさせる、と言うもの

つまりカミコさんが12歳で受けた祭事で振る舞われたのは

本当なら一緒に育っていき共に生きていったであろう実の妹の肉だった

村の老人は「オニコ」が産まれると災厄がふりかかると信じ、また「オニコ」を食べる事で「カミコ」にはさらに強い神の力が宿る、と考えていたそうな 

カミコさんには食べさせるまで事実を伏せていたという。


普通に村では農耕してたみたいだけど、さっきも書いたけど地名がアイヌっぽい響きだからもしかしたら狩猟民族の末裔かもしれない

柳田國男の山の一生によると青森から三重までアイヌの流れを汲む民族が転々としていたらしい

場所は東海地方の山間部とだけ

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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