351.万華鏡を覗く
クル、クル、
誰かが映った
クル、クル、
髪を膨らませ振り向く
クル、クル、
鳴呼!あの子だ!
クル、クル、
泣き顔、目が窪む
クルリ
一瞬だった
ズルリと顔の肉がずれ落ち、乳白色の骸が露わとなった
ハッとして目を離す
そこには何もなく、そしてあの子が誰だったのか思い出せない
・・・
352.生傷の絶えない作曲家がいた
「体を切るとそこから曲が聴こえるんです。それが必ず、私がその時心から求めていた曲なのです」
そんな彼が自殺した
喉から下腹部までを切り裂いたのだ
右手にはナイフと、側には楽譜、そして死に顔は今までに無い程の高揚としたものだった
・・・
353.懐かしい人に会うと私の記憶の映写機がその人との思い出を映しだそうとするのだが、どうも歯車だか何かがギシリギシリと不愉快な音を立てる。それを聞くたびに私の右脳だか右肩だかがむず痒くなるため、あまり会いたくないのである。
・・・
354.正方形の小さなプラネタリウムの投影機の中を覗くと、小さな地球と目が合った。
・・・
355.君のビー玉のような目を見ていると、五体程の小さな人影が見えた。真ん中の一人がレバーを持っている。
「彼が今現在の操縦者」
君の瞳孔と目が合った。
成る程、君は会う度人が変わった様に明暗のように笑ったり泣いたりする。
君の魅力の理由はこれか。
僕が手を振ると、中の五人も手を振った。
・・・
356.窓を開けられた棺桶から覗く君の顔は、まるで絵画のようだった。
白く冷たい肌に桃色に塗り込まれた唇、小さな顎周りを囲うのは百合の花。
彼女は全ての動きを止めた。
それは絵と同じ事であり、彼女は絵になったのだ。鳴呼、絵に生死はない!
それ以来彼女は私の中に飾ってある。
・・・
357.その兄が偽物だという事はすぐにわかった。
山で迷った僕が泣いていると声がした。服装こそは兄と同じだったが、目鼻口の位置があべこべだったのだ。
「大丈夫」
不気味な容姿に反し、その声は優しく、手は暖かかった。
麓に着いた時、あの兄は居らず握った手にはどんぐりが一つ入っていた。
・・・
358.雨降る夜、地下鉄から降りると誰も居なかった。
振り返ると扉の閉まる瞬間、車内に飛び出し坊やの看板が見えた。
おかしい。次の電車がこない。
まだ7時だ。誰も居ないわけがない。
外に出ようと思い階段を上ると背後から音がした。振り返るとグチャグチャに砕かれた飛び出し坊やがそこにいた。
・・・
359.その暗く冷たく、まるで雪国の海の底のような星には、太陽のように輝く黄金の槍が刺さっており、その槍を支えに立ち往生した骸骨が一人空を見上げていた。
きっとそれは何かの終わりの後であった。
・・・
360.廃虚となった市民プールの更衣室
その個室シャワーの真ん中の部屋にて夏に置き去りにされた入道雲が一つ、浮かんでいた
崩れた天井から空が見える
浮き上がろうか、まだ腰が上がらない
床から咲き出たヒマワリが日に輝く
そこは夏として完璧だった
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