目を瞑って歩く遊び

目を瞑りながら歩いていると、無いと頭で分かってても目の前に壁があるような錯覚に陥って「うおっ」って立ち止まり目を開けてしまうよな?

小学三年生の時の話になるが、夏休み前って記憶があるから七月だと思う。

休み時間、正確には登校直後の朝礼を待つまでの時間だった気がする、

朝から元気に「大発見をした」って騒いでたやつが居たんだ。


そいつは男子で、ちょっと知恵遅れ気味……

というか学年に対して精神年齢が低い生徒だったんだが、

彼の話を聞く所によると、その大発見というのは、

「人気が無くて広い場所で(上記の目を瞑って歩く遊び)をしたら、異世界に行けた」

というものだった。

「自分が『(錯覚だとわかっていても)壁に近い……当たる!』

と思ったタイミングで本当に壁に当たったような衝撃を受け、

それでも目を開けずに歩き続けたら、空が赤くて、誰も居ない場所に行ってた」

「夕方だった筈なのに、学校前の通りまで行っても車の通り一つ無かった」

「突然眠くなって、気が付いたら元の場所で寝ていた、そうして異世界から帰って来られた」

と興奮気味に事の顛末を語る彼だった。


前述した通り、彼はちょっと頭のおかしい子、という認識がクラス内に浸透していたから、真に受けた様子の生徒は誰一人として見受けられなかったのを記憶してる。

学年が学年だし、言っていたのが彼でなければ、ちゃんと話を聞いた生徒の一人や二人居たとは思うが……。


まあ次の展開が読めたと思うが、その通り、彼は数日後に行方不明になった。

これは、当時の俺にとって、洒落にならないほど怖かったんだ。

何故なら、その「目を瞑って歩く遊び」は、俺達の学年でちょっとしたブームだったんだ。

即興の肝試しというか、スリルを味わったり、仲間のチキンさをからかったりするような遊び方をしていた気がする。


ともかく、もし万が一、

その遊びの最中に、行方不明になったあいつみたいに自分も異世界に飛ばされて戻れなくなったら、みたいな想像をして、死ぬほど恐怖した記憶が鮮烈に残ってる。

そう恐怖したのは俺だけじゃなかったようで、その遊びはけっこう流行っていたにも関わらず、彼の行方不明が知れ渡ってすぐに俺達のクラスではその遊びがぱたりと止んだし、

他のクラスにもその波は瞬く間に広がっていった。


ただ、彼は俺達の予想に反して生還した。

五日か一週間経ったごろだったと思う。

近所の森で気を失っていたのを保護されたとか、そういう話だった筈。


しかし、保護される前と後では彼の人格というか様子が随分と違っていた。

保護される前では、どうでもいいことでもいちいち騒いだり爆笑するような、

所謂"空気を読めない"やつだったんだが、保護された後では、口数も少なく、上の空というか、常に宙を見つめているようなやつになっていた。


端から見て相当不気味で、夏休みになるまで、それまで以上に彼に話し掛ける生徒は少なくなっていたと思う。

そして、夏休みが開けて久しぶりの登校で、彼の転校が担任から告げられた。

家庭の事情と担任は話していたが、クラスの誰もが「彼の行方不明」が転校に起因している、と確信していたように思う。


ただ……ひとつ気になるのが、本当に彼が異世界に飛ばされたとして、

「目を瞑って歩く遊び」は実際はそれに関係していなかったのでは、あるいは、関係していたのはそれだけではないのでは?ということ。


彼が行方不明になった近所の森というのは、元々(小学生の噂レベルであれ)色んな噂があったし、第一、小三という年齢を考えれば、真に受けない素振りをしつつも、実際は信じ込んでいたヤツも少なからず居ただろうし、その中で「遊び」を実行したヤツも一人くらいは居てもおかしくなかったと思うんだ。

彼の行方不明の噂自体は他のクラス、学年にも相当広まった筈だし、それを考えれば尚更だと思う。異世界とか憧れる年齢だし。

にも関わらず、(多分)行方不明になったのは彼だけ、というのは、「目を瞑って歩く遊び」だけじゃなくて、様々な条件を満たして偶然異世界への扉を開けてしまったんだろうな、と今になって思う。


以上で終わり。

皆さんも誤って異世界へ行かないよう……と言いつつ、

今では行けるものなら行きたいと思う程に現実逃避したい俺

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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