ショートショート 261~270

261.夜、違法駐車した車に若者が『拾ってください』という落書きをした。その車の持ち主は車の中で眠ていた。

その夜、その男が車ごと行方不明になった。そして一週間程で山の奥で発見されたという。

様子はというと車は異様に潰れており、また運転手は「巨人が…」とうわ言を呟いていたそう。

・・・

262.空から糸が垂れてきたので、その先に紙コップを通し糸電話にした。

するとその糸電話から不思議な言語が聞こえてくるので、Google翻訳をしてみるとどうやら彼女(彼)は火星人で、地球人と話がしてみたかったのだそう。

「いつかあなたに会いたい」

そう言われたので私は宇宙飛行士になったんです。

・・・

263.その星の映画は、誰かの夢だった。

誰かがみた夢を受信し上映するらしい。だから上映はいつも夜なのだ。

その日の映画も相変わらず支離滅裂な齣撮りで、幼い男女が手を繋ぎ成長し、老いて塵になるという話だった。

ただ最後、お互い目を合わせ微笑むシーンは、私の懐かしい誰かを思い出させた。

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264.首だけで空を飛ぶ夢を見た。

人気のない道を超低空で飛び、たまに会う人は面白いぐらいに私に怯えた。

首だけの体はとても軽く、また回ると私の長い髪が顎下でまるでスカートのように舞うのがとても楽しかった。

それ以来、首下が不要に思えて仕方がない。

今手元には包丁がある。

・・・

265.悲しみの底にて安定を保った私の心の臓に矢を刺して、嫌だと泣き血を吐く私を容赦なく上へ釣り上げようとするのは紛れもなく希望に狂った私だった。

この糸を切れるハサミがあればいいのだけど、もし万が一と希望を諦め断ち切れない自分が一番浅ましく愚かで嫌いなのだ。

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267.「いやあ、片付けるのが苦手でね。

もしかしたら僕の部屋で新生物とか

進化した生物とか出てきちゃうかも」

そういって笑う教授に、

俺は先ほど見た

二足歩行で走り去ったゴキブリの事を言おうかどうか迷っている。

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268.屋上から落ちる間、いわゆる走馬灯を見た。

どんどん記憶を遡り、

新入社員、高校、中学、小学、幼児期

さらには胎児の記憶まで、

そして一変し、老婆の記憶になった

若返り、今度は若者の記憶

幼児、老人、騎士、爬虫類、魚、

アメーバ…

この走馬灯はいつまで続くのだろうか

・・・

269.「ブラボー!!」

映画館で男が立ち上がって拍手をする

観客は彼1人だけ

「我ながらいい人生だったなあ」

男はそのエンドロールの最後に流れた自分の名前を見届けて

この映画館を後にした

・・・

269.「ごめんなさい…貴方のコレクション、

1つ壊しちゃったの。」

「いいよいいよ。大丈夫。

だから毎回首にナイフを押し当てて

言うのやめて」

・・・

170.恋をすると、何か胸元を抉られた気持ちになるので、

多分その時掬い取られたものとは

正常な判断と正常な心拍数、正常な呼吸方法で、

そしてその分入れられたものは明日への希望なのだろうね。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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