ショートショート 231~240

231.その朽ち果てたステージでは、早朝の光が差し込むとバレリーナの回る影が浮かび上がる。

もう随分と前に人は滅び、あとは機械の寿命と植物の支配を待つだけの地球。

情熱などとうに消え去った筈なのに、そこに映るは人の未練か、ステージの昔の夢か。

今日も影は回っては巻き戻しを繰り返す。

・・・

232.たった今届いた古い遺書を頼りに樹海へ潜った。その遺書は僕への恋文の様だった。

そこに居たのは蔦に絡まれ、丁度磔にされたキリシトの様に吊るされた、友人と思わしき骸骨であった。

一体君が、何の罪を負っただろうか。

何故僕にも罪を分けらなんだ。

僕は彼の口から伸びる、一輪の花を摘み取った。

・・・

233.「今日は自習!…戸と窓の鍵を閉めとくように」

喜ぶ僕らと反対に、先生は他の先生と険しい顔をして何か話していた。

どうも何かを捕まえるらしい。

「こら!待ちなさい!どこの子だ!」

大勢の先生がグラウンドを走り回り、見えない何かを追いかけている。

大人にしか見えないらしい。

・・・

234.「ああ、それは、人のテンションを変えられるリモコンなんですよぉ!

ヒャー凄いですよねぇ!こんなの!ボタンポチッとするだけで人のテンションを変えられるなんて…神様にでもなったつもりなのかな…こんな25世紀望んでいなかった…はぁ…

ちょっとお客さん…遊ばないでよもぉ〜!!」

・・・

235.古風にも私は書いた手紙を瓶に詰め、宛先なく海に託した。

その日の夕方、宅配便が届いたので中を開けると朝流した瓶だった。

ワクワクしながら取り出すと1つの紙がヒラリと落ちた。

『海ニゴミヲ捨テナイデ下サイ。

次ハ不法投棄デ捕マエマス』

外では宅配ロボットがチップを待っている。

・・・

236.「みなさんこんにちは

こちら地球のラジオ放送局です。

M78星雲の方、プリュク星の方、トランセクシャル星の方

そして、火星へ行った地球人の方。

お元気でしょうか?

地球では水が流れ、緑が溢れ、

原始的な様子が広がっています。

この美しい様子が貴方達の言う

終末なんですね」

・・・

237.「元気でね」「早く帰ってきてね」

「必ずだよ」

『うん、必ず…』

あぁ、どうやら君の願いは何一つ叶えることは出来ないようだ。

『ガガガ…ピー…プスン…プスン…』

僕は壊れた機体の中で

やたらと美しい宇宙の中を漂っている

・・・

238.「まずは50年…まだいけるかな?

プラス50…むっ!やりすぎた…

マイナス20…10…5…プラス2…」

「よし出来たぞ!最高のワインだ!」

時間という概念が解明された今

時間の利用価値は上がっているが

時間そのものの価値は無いに等しい。

・・・

239.地球にバグが起こり、

学校、行きつけの喫茶店、

そしてあの子は空に浮いたっきり

戻ってこない

・・・

240.マッシュルーム戦争にて崩壊し、終末を迎えた地球で、残った希望は

僕のこのやたらと長い生命線だけだ。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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