181.私の国の王様は大蛇だ。
群青に光る鱗を星の瞬きのような、音量のわからない不可思議な音を携えて現れる。
人が与えた金銀宝石の飾りを凌駕するその王は低く空を飛ぶ。
その昔、人類を愛した為手足を貰えず、それからずっとこの国を見守っている。
私は王様の睫毛の長い、人のような眼が大好きだ。
・・・
182.供物も家も余計とした心優しい神様は、そのせいか人間から忘れ去られてしまった。
「君のおかげだ」
随分と小さく、薄汚れた神様はそう言った。
「君が私を忘れぬうちは、私はまた存在できる」
無欲な神様に必要とされるのは、なんだか特別な気がして、すこし心が痒かった。
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183.「申し、座らせて頂けないか」
老人が私の隣を見る。
『すまない、彼は座るべきなのさ。
僕が立つので此方へどうぞ…』
「ははあ、成る程…」
老人は恰も全て悟った様に、また無関係そうに頷き、座った。
老人の隣へ座るは詰まった骨壷。
なんの不気味さもない、ただ僕と友人の49日間の旅行なだけさ。
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184.「ぎらん」
確かに音がした。
目を開けると外が銀色に光っている。
月光、それと、
少女だった。
彼女は光る地面を自由に無敵に、くるくると踊りまわっていた。
その清艶さに見惚れ、溜息をつくと真っ白い息が出た。
朝、目覚めるとそこは一面銀世界であった。彼女はきっと冬だったのだ。
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185.友人が砂クジラに攫われた。
地面が揺れた刹那、バクンと黒く大きな砂クジラに食べられたのだ。
「砂クジラに攫われるのは居場所がない人」
そんな噂がある。
そんなまさかとは思っているが、帰ってきた時には沢山話を聞こうと思う。
南国でバカンスを楽しむ友人のラインを見て、僕は少し嫉妬した。
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186.「その男は異様な出で立ちであった。着物とも洋服とも言えぬ格好をし、また矢鱈と黒く臭いのする茶を飲んでいた。聞くととても苦いという。格好とは切れ目のない、また襟に余計な布を誂えたもので、羽織らず潜り身に付けるものらしい。
夢の中、キサテンにて」
これは元治時代のある男の夢日記だ。
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187.知識を蓄える程に伸びるという君の髪の毛は、すっかりと伸びきって地面に根付き、君を押し潰さんとしていた。
『ジャキン』
君は髪と共に、僕の好きだった博識さと僕の記憶も失った。
しかしこう、散歩をしながら君から聞いた、君の知らない話をするのはなんとも切なく愛しいのである。
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188.狂う程に美しい桜に当てられ、彼女はおかしくなってしまった。
彼女はそれ以来ずっと呆け、食事から何から全て誰かが手伝わねばずっと椅子に座っている。
そんな生活が一年程続いたある日、突然彼女が動き出した。
行先は、あの桜の元であった。
ゆっくりと振り返り、桜によく似た瞳で微笑んだ。
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189.その男は時計蒐集家だった。
彼は時間ではなく時計に集中する為、集めた時計全てを出鱈目な時間に合わせていた。
ある日、部屋から出てみると予想より1時間経っていた。
次の日は3時間、次は5時間、一週間後には半年…男は怖くなり部屋に引き籠った。
男はとうに300年程過ぎている事に気付いていない
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190.君の腹部から溢れ出たそれは例えるなら真っ白な絹の袋を引き裂いて漏れ出した宝石のようで、私はその時、はじめて彼女の美が完成されたように思えたのです。
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