小学校の7不思議の一つに『準備室の先生』というのがあった。
廊下の奥に鍵の掛かった使われていない部屋があって、
放課後、周りに誰もいない時に、その部屋の扉の前に立って話しかけると、
準備室の先生が相談に乗ってくれる、というのだ。
これには『鍵穴から中を覗いてはいけない』というルールがあった。
俺は怖がらない方だったので、
よく「○×先生がムカツク」というようなことを、冗談半分に部屋の前に立って喋っていた。
ある時、なにを思ったのか、ドアをノックしたことがあった。
『ハイレ』
確かに人の声でそう聞こえた。入れ。
「準備室の先生が返事してくれた」という友達もいたので、
これは誰かが中に入ってイタズラしてるんだなと思い、鍵穴を覗いてみようとした。
しかし、『覗いてはいけない』というルールを思い出して、ギリギリ踏みとどまった。
俺はドアノブを恐る恐るひねった。
ガチャっと音がして開く気配があった。
俺は逃げようとして走り出したが、指が引っかかってドアが完全に開いた。
もう後ろも見ないでダッシュして、ランドセルを教室に置きっぱなしのまま校門を出た。
それ以来、もうあの廊下には近づかないようにしていた。
それから何ヶ月かして、クラスで7不思議の話になった。
「誰か全部知ってるかー?」と言われて、みんな知ってる話を並べた。
「親指が伸びるベートーベン」
「夜中プールサイドを走る子供」
などなど・・・
ちゃんと7つ出てきた。
俺はあえて何も言わなかったが、『準備室の先生』が消えていた。
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