10月の、台風の去った後に私たちが勤める幼稚園では林間学校を行う。
林間学校と言っても幼稚園私有の山へ行き小さな沢を登り、おにぎりを食べて夜にキャンドルセレモニーをして就寝するだけのごく簡単なものである。熱が上がれば下山して、怪我をすれば医者を呼ぶ、そもそも怪我をさせないし大事な子供たちに危ない事はさせない、そんな優しさにあふれた林間学校だ。
今回も、なんの問題も無く子供達は夜のキャンドルセレモニーを向かえていた。
子供達は真っ白な衣装に着替え、小さな紋章の書かれた安全蝋燭を蝋燭立てに立てて、ゆっくりと行進する。パイプオルガンの音と、子供特有の高い笑い声が響く中、魔方陣の書かれた床に到着した子供達はこれまたゆっくりと円を描きながらあの歌を歌いだした。
衣装の擦る音、パイプオルガンの厳かな音色、子供達の甘い歌声、ざわめき、息遣い
みんなが付ける7つ眼の子羊の仮面が蝋燭に照らされてオレンジ色に輝いている。
その素晴らしいキャンドルセレモニーが行われている体育館の下では、新米教師らを体育館に置いてその他の先生らが集まっていた。上からは子供達の旋律が聞こえる。
「今年も行おう」
その園長先生の声を合図に私たちは詠唱を行う。
体育館の床のと同じ様子の床に寝そべった園長先生は異形の物との交信を始めた。
「子供のという純粋な存在がその言葉通り『鍵』となるんだ」
これは150年前園長先生が言っていた言葉である。
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