同じ声

家具付きのおうちに引っ越すことになったので、不用になった自分の家具をリサイクルショップに売ることにした。

冷蔵庫やら洗濯機やらベッドを引取りに来てもらうために、携帯電話で問い合わせた。

昨日の5時過ぎだったはず。3コールで男の店員が出た。

そのリサイクルショップでは、店内に女性の声でCMが流れている。

店員の声と一緒に、電話口の向こうからは、

落ち着いたメロディにのった『お売りください』の口上がずっと聞こえていた。

しかし、なぜかそのCMは途切れ途切れだった。

ちょっと聞こえて、無音になって、またちょっと聞こえて。


周波数の問題だろうか、と疑問に思いながら店員と話をする。

ベッドは型の問題で引き取ってもらえないらしい。

ちぇっ、ごみにするしかないのか。

私が心の中で文句を言い、店員が息継ぎをした瞬間。

かすかに男性の声が聞こえた。

その店のCMは、女性の口上の後で男性が合いの手入れるみたいに店名を歌って、また口上があって…

ってつくりになっている。

機械の故障かなんかでCMが飛んで、いきなり歌に入ってしまったのかと思った。

でも違った。相変わらず女性の口上も続いている。やっぱり切れ切れだけど。

カウンターに声の大きい客が来たのだろうか。

次のちょっとした間で、この予想がはずれだったとわかった。


声は意味のある言葉ではなく、うめき声だった。「ぅぅぅぅぅぅ」て感じ。

どうやら、ずっと呻いていて、CMが途切れた時だけ聞こえたみたいだ。

…あれっそれも矛盾している。はじめは何も聞こえなかったのだもの。

どうやら、うめき声のほうの音量が上がっているらしい。

と気付いた時には、もう大音量になっていた。うめき声っていうか、叫び声レベルだ。

にもかかわらず、店員の声は少しも邪魔されずにこちらの耳に入ってくる。

『では、その日の午前中でいかがでしょう』

「うおおおおおおおおああああああああああ」て感じ。

で、私もなんかおかしかった。すげえ怖いと感じてるのに、淡々と会話を進めてる。

『はい。よろしくおねがいします』

『おおおおおおおおお、おお、お』

『ご不要にn、、、んでも、売り』←CMだけ途切れ途切れ

声が三つ同時に聞こえる。


びびりまくりで混乱する頭で、なぜだかピンときてしまった。

この叫び声、店員と同じ声だ。ぞっとした。

『おおおおおおおおおおおおおううううおおおおおおおおおおお』

悲しそうでも怒っている風でもなかった。近いのを探すと、絶望したって感じだ。

いつか見た映画で、心の病んだ独房の囚人がこんな声を出していたかも。


やがて商談が終わり、電話を切った。

携帯の電池がいきなり切れた。機種変したばっかで、昨日充電したてなのに。

今、やっぱり家具を売るのをやめるべきかどうか、自分会議してる。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

0コメント

  • 1000 / 1000