[東北]猿のようなもの

一週間ほど前になるが、庭先で猿を見つけた。 

でも本物の猿じゃなくて、猿と人間の中間くらいの生き物。 早朝だったので、最初は夢かと思ったんだが、軽く顔洗って見直してもやっぱりいた。 

あまりの衝撃に腰が抜けそうになった時、猿と目が合ってしまった。 猿は少し笑って、俺の近くに何か置きながら喋った。 

ガラス越しの上、猿の口はモゴモゴしてるだけだったんだが、 テレパシーっぽい感覚で、何を喋っているのかは理解出来た。 

『サンヌキカノ(?)というのが来るから、来たらこれを見せろ。自分で取ったと言えば向こうもくれるから、後は庭に埋めてしまえ』 

すると猿は、そのまま素早く庭の塀を越えて行った。 外へ出て確認すると、猿が何か置いた場所に歯が落ちていた。 人間の歯だと思う(多分奥歯)。


それから2日後。

昼寝してたら、婆さんが外に立ってた。猿の時と同じ庭先。 周りが田舎だから、近所同士だと庭の方から来る事もあったんだが、 その人は明らかに知らない人で、格好も上品な着物だった。 

寝起きでボンヤリしてたら、婆さんがガラスをコンコン叩いた。 開けてくれみたいな感じだったんだが、そこで俺も目が覚めた。 

「誰ですか?」って聞いたら、「サンヌキカノと申します」だと。 婆さんはニコニコ笑ってたが、それが逆に怖かった。 でも、引き出しに入れといた歯を出して見せると、空気が変わった。 

「どうしたんですか?」 「取って来たんです」 「本当に?」 「はい」

それから少し無言だったが、婆さんの顔から笑顔が消えた。 そして、袖の中から何か出して足元に置いた。 

置く時に中腰くらいに屈んだんだが、そのままの姿勢で、俺の目の前から猛スピードで立ち去って行った。 外に誰もいなかったので、多分目撃者とかはいないと思う。

 庭に出ると、やっぱり歯が一本あったので、洗ってから夕方前には庭の空いた所に二本とも埋めた。


町内会の掃除があったので、歯の事を聞いてみた。 

婆さんの名前は、忌み名らしい。 だから、「人に話したりすると不幸が広がるので話すな」と言われた。 猿や婆さんが何者なのかは、詳しく分からなかった。 

でも、昔は死人の歯を一本抜いて、お守りにする習慣があったらしい。 どこでもそうだった訳じゃないし、今はもう続いていないが。 多分、猿は御先祖様か何かの使いで、婆さんから守ってくれたのかと。 

「もう名前を広めた」と言ったら、 「護符をやるから、名前を逆に唱えて祈れば厄も落ちる」と教えてもらった。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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