人形の声

いつの頃だったかはよく覚えてないけど、小学生の頃だから十年は前。


お爺ちゃんの知り合いから、ある人形を貰った。

人形劇なんかで使う、上から糸で吊るして動かせるやつ。

当時の自分は動くのが面白くて、よく適当に動かしたのを覚えている。

遊び続けるうち、俺はその人形の声みたいなのが聞こえるようになっていた。


その人形とは他愛のない話ばかりしていたけど、

大事な出来事の直前にはよく教えてくれてるという、予言じみた事をしてくれるのですごく大事にしていた。


ある日、いつものように人形を動かしながら会話していると、人形が突然、

「そろそろいかなきゃ、ごめんね」と言う。

俺は泣きながら「行かないで」って頼んだけど、人形は頑なに「いかなきゃ」と口論していると、人形は「いまはなさいとこうかいするよ」と言い出した。

その一言が妙に怖くて、人形を吊るしていた棒から手を離すと、人形は床に吸い込まれた。


消える瞬間に、「こうならなくてよかったね。いままでたのしかったよ」とだけ聞こえた。


夢だったらそれで良いんだけど、親なんかはその人形で遊んでいたことを覚えているし、

「昔はよく予知してたよね」なんて言われることがあるから、事実だと思う。

それと、人形が最後に言った「こうならなくてよかったね」ってのが、思い出す度に気になっていた。


そして今日。

なんとなくいつもは通らない道で帰ってたら、古道具屋で例の人形と同じ人形を発見した。

懐かしさがこみ上げてきて、迷わずに買って帰った。

その人形を部屋に置いて風呂に入ってたら、体を洗ってる最中に耳のすぐそばではっきりと、

「つぎはないからね」と言う声が聞こえた。

即座に鏡を見ても、何も映っていない。

振り向いても風呂場から出てみても、誰もいなかった。


気のせいだと思って、そのまま洗って風呂から出たら、目立つ位置に置いてあった人形が忽然と消えていた。

部屋の鍵は当然かかってるし、チェーンもしてあった。窓も確認したけど、きっちりと閉まっていた。


そして、嘘みたいなことに、

あれほどはっきりと覚えていたはずの、人形の造形や詳しい大きさが、全く思い出せなくなってしまった。

多分、人形が、次に会っても持ち帰らないようにしたんだと思う。

なんであの人形にそこまで気に入られていたのか、全くわからない…

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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