僕は当時、一人暮らしをしていました。
借りていたアパートは1LDKで、リビングとキッチン両方にテレビがありました。
平日は、会社から帰ると風呂に入って、キッチンでテレビを見ながら食事をするのが習慣で、そのあいだ、リビングの電気は消してあります。
ある夜、いつものようにテレビを見ながら、キッチンで夕食をとっていました。
すると暗闇のリビングから、カシャカシャと何か金属の鎖か何かが落ちるような、
小さな物音がしました。
なんだろうとリビングに行きましたが、何も変わったところはありません。
そのときは特に気にすることもなく、そのまま夕食をとり終えました。
また違う日の夜。
同じようにキッチンで夕食をとっていると、
暗闇のリビングから、ズズーーーと、今度は壁を木の棒で軽く擦るような物音が聞こえてきます。
ん?とリビングを覗き込み、今度は電気もつけましたが、やはり変わった様子はありません。
そのときも気のせいだと思い、やり過ごしました。
さらにそれから数日たったある夜の夕食中、またしても電気を消したリビングから物音です。
カタッと、今度は小さなビンが倒れるような音です。これははっきりと聞き取れました。
隣の部屋とか上階とかではなく、明らかにうちのリビングの中の音です。
速攻でリビングの電気つけました。しかし、やはり見た限り異常なし。
そもそも、そのような音をさせるビンすらリビングに置いていません。
得体の知れなさで、ここで初めて僕は怖くなりました。
その後しばらくは、そのようなことは起こりませんでしたが、ついにその日は来ました。
その日は、仕事が繁忙期の残業で、夕食は午前1時過ぎでした。
コンビニの弁当を食べながらテレビを眺めていると、
ドサドサドサっと、大量の本か何かが床に落ちるような物音が、リビングで発生です。
椅子から飛び上がって、リビングに駆け込み電気をつけるも、やはり何もなし。
音の主と思われる本すらありません。いつのもまま。
でも、明らかにこのリビングから音は聞こえたのです。
全身に鳥肌が立つような恐怖に襲われ、呆然と立ち尽くしていると、突然リビングにある電話が鳴りました。
そのとき僕は、電話といえば携帯で事足りており、プライベートも仕事も、すべて電話は携帯を使用していて、
家の電話はひいてはいたものの、まったく使っていません。
そもそも、この家の電話番号を知らせているのは、実家と会社の人事部だけです。
友人や知り合いは、誰も知りえるはずの無い番号です。もちろん、電話帳にも登録していません。
僕は、反射的に電話を取りました。
「・・・はい?」
電話の向こうは沈黙しています。
「もしもし、○○ですが?」
無言状態が続いています。
僕が電話を切ろうとしたそのとき、受話器の向こうから声がしました。
ナビゲーターのような、年齢が推測できない、感情のこもっていない女性の声です。
『・・・いまの、いまのは私がやったんじゃないんです』
「えっ?」
『これまでのも、私がやったことじゃありません』
「・・・?あのどちらにおかけでしょうか?」
『私じゃないんです』
「・・・」
『ただ、もし今度音がしても、もう見に行ったりしないでください。そうすれば音はなくなります』
「・・・」
それから5秒くらい無言状態で、そのまま電話は切れました。
その晩は恐怖で眠れませんでした。
次の日からリビングは夜は常に電気をつけ、テレビもスイッチオンにした状態にしておりました。
電話の相手が言ったような、『次に音がする』ようなことも、それ以来ありませんでした。
転勤より、それから4ヵ月くらいで実家に戻ってきましたが、いまでもあの時のことを思うと怖くなります。
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