海洋生物型の板尾創路

もう20年以上前、俺がまだ小学校3,4年くらいだった時の事。

当時沖縄にボロいが別荘を持ってて、夏休みになると2週間くらい家族とそこで過ごしてた。


俺は毎日暗くなるまで、近所の海で貝や海硝子を取るのが大好きだった。

そんな旅行も半ばくらいになって来た時の事。

そろそろ暗くなって来たからぼちぼち帰ろうと、まだ貝を拾いながら海沿いを歩いてた時。

砂浜にアシカ(アザラシ?)が一匹いた。


勿論そんなもん今まで見た事無いし、そんなもんが出るなんて聞いた事も無い。

夕焼け混じりの夜空をバックにしたそれはオバケみたいで、逃げようかな…と後ずさっていたら、

突然アシカがぺたーっとうつ伏せに寝ころび始めたかと思うと、パカッ!って背中が開いて、

そこから板尾創路そっくりの細身の真白いオッサンが、全裸でにゅっと立ち上がって出て来た。

え!?着ぐるみ!?ヤバイやつ!?と思ってぎょっとしてたら、こっちに気づいて顔を向けた。

こっちに手招きして来て、ゆっくり口を開くと、


「こんばんは、よk―――ば、…おはn―――しよ―――…」


『良ければお話しよう』と言いたかったみたいだけど、時折ザザーッとノイズがかった様な音が出て聞こえづらい。

声自体は、アニメとかに出て来るイケメン声の声優さんの様な綺麗な声だった。


で、アシカ板尾と一緒に聞きとり辛いながらいろんな話をしたんだが、

板尾は人間ではない、(はっきり言わなかったが、そう思わせる様な発言を多々した)

昔は少し遠い所で暮らしてたけど、環境が悪くなって出て行った。

群れで暮らしてたけど、止む負えない事情で(それは教えてくれなかった)離れてしまった。

そう言う話を一方的にすると共に、板尾は号泣し始めた。

「おじさんは見た目は海洋生物だけど、心はミジンコなんだよ」みたいな訳解らん事まで言い始めた。

でも物腰は穏やかで、子供好きと言う感じの良い人だったんで、結局そのまま傍に居た。

段々可哀想になって来て、持ってたバケツ一杯の貝や海硝子をあげようとしたけど丁寧に断られ、

逆に「そういうのが好きなら」と、アシカの着ぐるみ?の中から小粒のキラキラした宝石や金銀鉄の様なものをくれた。

板尾は「元は君達が海に落としたものだと思う」って言ってたから、

今思えば人が落としたアクセサリーや金具の一部?だったのかも知れん。


結局その後は、「暗くなって来たから帰った方が良い」って言われてそのまま帰った、と言うだけの話で、

その後あのおじさんを探したけど、やっぱり居なかった。

確か、グリコキャラメル一つ添えて『元気出してね。きっと良い事あるよ。』みたいなボトルメール書いただけで、

その後は毎年来ても特に何も無かった。


でも本当に板尾クリソツで、あれは板尾だったんじゃないかと思う事も時々あるんだけど、

それでは説明が付かない事も多かったんで、やっぱり妖怪の類だったんじゃないかな。

WUNDERKAMMER

名作は、名作と呼ばれる理由があるはず。 それを求めて映画や本を観ています。 あとは奇妙なもの、怖い話や自分が好きなものをここに集めています。

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