ことの起こりは、彼女が中学三年の卒業前まで遡る。
卒業を間近に控えていた彼女のクラスでは、
卒業記念にと、クラス全員で未来の自分に宛てた手紙を書き、校庭の桜の木の下に埋めたのだそうだ。
時は流れ、彼女が30歳の時、中学当時の旧友が集まる同窓会があった。
その時、彼女は他のクラスメイト達に、卒業前に埋めたタイムカプセルのことを、
「覚えてる?懐かしいよね!」と聞いてみた。
ところが、その場にいた全員が全員、
「はあ?おまえ何言ってんの?そんなことしてないだろ」と、タイムカプセルの存在を全否定されてしまった。
彼女としては自分の記憶に確信があったし、他のみんなが覚えてないことの方が不思議だったので、その場では「絶対にタイムカプセル埋めたよ!」と言い張ったのだが、
やはりみんなの記憶には、そんなものは存在していない。
まあ、そんなカプセルの存在など実生活では何の影響もないわけで、結局、その話は流れてしまったそうだが、
彼女は一人、その存在を確信していた。
「確かにあの時、校庭のあの場所に埋めた」のだ、と。
ただ、彼女自身が未来の自分に宛てた手紙に、どんなことを書いたのかだけは、どうしても思い出せなかった。
それから10年後。
彼女が40歳の時に、その母校の中学校では、校舎の増築工事が行われることになった。
新校舎が建設されるのは、彼女の記憶にあるタイムカプセルを埋めた場所、
校庭に植えられていた桜の木のある場所だった。
「あの木を切って、その上に校舎を建てたら、カプセルは二度と取り出せない」
彼女はそう思ったのだが、どうすることもできなかった。
ところが、工事の進捗に合わせて、そのタイムカプセルが工事関係者の手によって発見されたのだ。
早速、同窓会名簿を通じて、当事者たちが母校に集結した。
クラスメイトは30歳の時の同窓会で、彼女がタイムカプセルのことを話していたことを覚えていた。
「なんでお前だけ覚えてて、他のやつの記憶にはないんだ?」と不思議がりはしたものの、
とりもなおさず、各々自分の手紙を開封して読んだそうだ。
その時、クラスメイトの中で二十歳の若さで夭折した、Y君という男子生徒の手紙を、
担任だった先生が代わりに開封し読み上げた。
Yくんの手紙
「このカプセルはみんなが二十歳になった時、その存在が記憶から消えさるだろう。
そしてその20年後に再び思い出される。しかし俺は二十歳で死んでいるのだ、イエイ!」
その場が凍りついた。
預言どおり20歳で亡くなったY君。
そしてタイムカプセルの事を一人覚えていた彼女の手紙もまた異質だった。
彼女の手紙
「40歳の私へ。
私は他のみんながカプセルの存在を忘れたとしても、私一人だけは絶対に忘れない。やったね!」
死んだYくんの手紙に呼応するかのような彼女の手紙。
その手紙は書いた当時、各々が家で書き、封をして持ち寄ったものだし、
彼女とYくんは示し合わせたわけでもなく、お互いの手紙の内容を知っていたわけでもない。
そして手紙を書いた彼女自身でさえ、自分がそんなこと書いていたという記憶が欠落していたそうだ。
一同、皆、不思議なこともあるもんだ、と妙に感心した様子。
担任の先生は、「これは本当に言霊の力だなあ。書いてあることが現実になっている」とのたまったそうだ。
実は、彼女の母校であるこの中学校があった場所は、
戦時中、大きな病院が建っていたとのことで、空襲で学徒動員の生徒たちが何十人も犠牲になった場所でもあった。
そのため校内には慰霊碑まで建っているという、いわくつきの土地。
実際、彼女が在学中、霊感が強い彼女は何度も校内で心霊体験をしたらしい。
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