1461.シーラカンスの群れは一匹死ぬと何処からともなく現れた若いシーラカンスによりその穴が埋められ群れを維持していく。デボン期から続くそれは沈黙と永劫を静かに紡ぎ、隕石により地球が破壊し時間も消えた頃、何処からか現れた若いシーラカンスによって埋まった群れは音もなく、銀河の中を泳いでいく。
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1462.月に四角く穴が空いていた。屋根を登り見たそれは開いた非常ドアで、中から透明な古代魚達が音を立てて溢れ出し自ら非常事態を作り上げた。「ここは夢なんだよ」とドアの奥、鎮座した林檎が言う。向こうにはこの世の本当である本物の月が世界を見据えて、林檎を齧った私はどろんと何処かへ追放される。
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1463.その夜は白檀の香りが染みており、これが最期なのだと世界中が知っていた。「浄土に持っていけないものは何だろう」と防波堤で話の脱線を愛しながら語る私達は永遠そうだったのに、彗星の様に空が輝き水平線に伸びる蓮華と観音様が現れ、涙に似た温度の後光に包まれた私達は胎児のように溶けていく。
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1464.「メーデーメーデー、こちらひとりぼっち。街の隅にて数え終えられた羊達を発見、水溜りへ変わってゆく模様。台所では月明かりを確認した。誰かの夢の成り損ないらしい。最果てに観測された彗星は一人の幽霊を連れ去り、今は夏の大三角形の合間を飛行していると噂あり。メーデーメーデー、夜は長い」
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1465.「月が砕け散りました」とニュース速報が照らす青い夜の中チャイムが鳴って、君がガラスの傘を持ち立っていた。傘には秘密結社のマークがあり君が何を代償にして今夜を作ったのかはわからないが、手を伸ばした枝は緩く、夜を裂く月の欠片は薄荷飴のようにキラキラと眠る街たちを音もなく破壊してゆく。
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1466.月明かりの満ちた青い台所「 」、落ちた椿の落下点「 」、誰かが念写した月の裏側「 」、夢で見た最果ての海「 」、プラネタリウムの君のいた席「 」、煙が書いた詩の余白「 」、曇り空の水平線「 」、博物館の日差しの静けさ「 」、
『ここに私を隠してしまおう。いつか幸福が来る前に』
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1467.不思議な夢から目覚めると、私は私状の生き物へと変わっていた。私状の生き物へと変わった私は随分と私の真似が上手く、「おはよう」も「こんにちは」もずっと私よりも綺麗に演じていたのだが鏡を見た私はやはり私ではなくて、誰にも気付かれない私の死はその夜眠る私の胸で小さく小さく弔われていく。
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1468.その砂漠には月の裏側の様な廃都があり、古代高度な技術で栄えていたらしいが今や誰もおらず、ただ何かの記念日であろう年に一度のその日になると街の何処からともなく白い紙吹雪と共に大理石で出来たからくりの象や踊り子人形たちが誰のDNAにもない音楽を奏でながら人知れず何かを祝い続けている。
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1469.その砂漠には月の裏側の様な廃都があり、古代高度な技術で栄えていたらしいが今や誰もおらず、ただ何かの記念日であろう年に一度のその日になると街の何処からともなく白い紙吹雪と共に大理石で出来たからくりの象や踊り子人形たちが誰のDNAにもない音楽を奏でながら人知れず何かを祝い続けている。
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1470.白い三日月の下、漂流した壜を覗くと小さな炎が入っていた。「これは原始の頃の炎だね」と言ったのはいつの間にかいた死神で、どのくらい古いのか聞くと「言葉が生まれる前の神様もいない時代、生物の形が決まる前の、ただ風だけがあった頃」と唱えるので私はそっといつか石だった頃を思い出していた。
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